6/27(水)、大学に行く前に、シネマe-ra浜松で『鬼に訊け〜宮大工 西岡常一の遺言』を観る。
朝10:00〜の興行のみなので、仕方ない。
西岡常一(1908-95)の仕事については、以前テレビで放送されたビデオ作品でほんの少しばかり知っていた。
知っていたというのも実はおこがましいのであって、何処の放送局でいつ見たかも書き留めていないし、内容についても殆ど記憶がないに近い。
恐らく、この映画を監督した同じ山崎佑次の『宮大工 西岡常一の仕事』が放映されたのにぶつかったのだろう。
今回の映画は、その山崎が、”仕事”から、西岡常一という”人間”に焦点を当て直したものである。
「法隆寺に鬼が住んでいる」という話しが、小学生時代の山崎の耳に入った事があるらしい。当時、法隆寺の昭和大修理に当って、学者と対立しても自説を枉げない宮大工として印象に強く残ったとの事だ。
その後、法輪寺三重塔の再建に際しても「檜だけなら千年持つのに、何故鉄材で補強しなきゃいけないのか」と噛み付いたとの報道があった、と。
「鬼」という言葉には、こうした背景がある。
法隆寺棟梁 西岡の背中には、1400年を超えて実際に生き続ける世界最古の木造の寺の存在があり、その伽藍造営にまつわる棟梁代々の口伝がある。ぶれないのも尤もなのだ。
その西岡が、薬師寺の金堂と西塔他の白鳳大伽藍の再建に取り組み始めたのは1970年である。
設計図等無論ない。東塔という手本があるだけだ。
その東塔の調査,測量に、西岡は数年を費やした。
目の前に1300年の手本があって、どうして100年を目標にできようか。西岡の頭にあったのは、これから1000年を生きる堂塔を作る事しかあり得ない。
その為には、鉄材だけでなくコンクリートを使う事も否定した。コンクリートの耐年数は僅か数100年。
現代建築の鉄とコンクリートとガラスの工法が立っているのは、経済効率の論理の上でしかない。つまりスクラップ&ビルドの論理である。
西岡の以下の言葉(口伝中の言葉でもある)は、1000年もたせる事を前提としている。
・「堂塔建立の用材は、木を買わず山を買え」
・「木は生育の方位そのままに使え」
・「木組みは寸法で組まず、木の癖で組め」
木はどういう地質と環境で育ったかで、質が違う。同じ木でも向きで性質が変わる。陽と風の当たり方で、捻じれ方も変わる。癖の違う木を正しく組む事で木の力を滅殺するのでなく、最大限に利用しなければならない。
日本の国土はその65%が森林だが、薬師寺再建の時、日本には使えるヒノキはもう存在しなかった。日本の森林の荒廃を憂いつつ、西岡は、台湾に出向き、地質と自然環境を実際に確認し、木を買い付けた、その時既に、この木はここに、この木はこの用途に、と、頭で計算をしながら。
西岡は、祖父の命で、農業高校を出ている。そこで、土と植物の生成という基本を学んでいる。尤も、本人も、農業学校に行かされた当時は、その意味を理解できず、当初はよくサボったらしい。
このフィルムに登場する西岡常一は、もう80歳を越えている(1990年当時)。
インタビューに応え、若い者を教える風情からは、もはや「鬼」を感じる事はない。
しかし、それは、彼が遺言をしたためるような気持ちで、映画に出、若者達に接していたからだろう。
既に病院に長短の入院をし、インタビューの為に病院から現場に帰ってくるという事もあった。
本人が知っていたかとどうかは判らないが、癌だった。
法隆寺最後の棟梁として、「最後の宮大工」として、後世に伝えるべき事の重要性を認知していたのだと思われる。
監督 山崎佑次は、ある時、西岡の妻に言われる、
「撮影は勘弁して下さい。山崎さんはうちの西岡を殺すつもりですか？」
山崎は諦めかけたが、撮影は再開される。
西岡が、家族に一喝したらしい、「約束は守るんだ」と。
この映画を、西岡常一の遺言と見ず、日本文化に対する警鐘ととらずに、我々は何を訊くというのだろうか。
薬師寺の新伽藍は、これから1000年の後の人々にも、その姿を奈良の西の京で見せてくれるに違いない。それは、西岡の「約束」でもあり、彼の約束は、信ずるに足る。
監督 山崎佑次
撮影 多田修平
編集 今岡祐之
ナレーター 石橋蓮司
2011年日本
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