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2008年11月15日16:43

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ジュリー・ガヴラス『ぜんぶ、フィデルのせい』

レンタルDVDで『ぜんぶ、フィデルのせい』を観る。
この映画を観たい映画にピックアップしてどの位経つだろうか、殆ど1年近い筈だ。やっと!という感慨。

とは言っても、この映画について、それ程多くを知っていた訳ではない。
監督のジュリー・ガヴラスが、『Z』や『戒厳令』を作ったコスタ・ガヴラスの娘だという事も、これを観てから知ったような次第。

1970年代、どっぷりと性的で政治的な苦い青春の日々に、私は両方共観ている筈だ。
映画そのものはたいして記憶にないが、国会議事堂前、眼に沁みた催涙ガスは、デモ翌日の朝帰り、疲れ果てて歩く公園を覆った霧の色とダブって残り、藤圭子の演歌の声のやるせなさと伴に、私の一生を変えたと言ってもいい。オーバーな表現だけれども、ここでは勿論象徴的な意味で言っている。
だから、映画の中で、小学生のアンナが口にする”キョーサン主義って何?”等々の真っ直ぐで衒いのない言葉は、自分の胸を、全く久し振りに、もう一度抉り直す力を持っていた。
その辺りは、この映画を観た若い世代の感じ方とは大分違うかもしれない。

1960〜70年代というのは、それ程に政治的な時代で、学生は日本の一学生でありながら、世界と”レンタイ”し、世の中を確実に変革させていけると信じ、そして、一気に絶望と幻滅も味わった。
私はその”尻尾世代”である。

監督ジュリーの世代が気になって調べると、1970年生まれとの事で、我々の懐古視点でなく、アンナと同じ目線で、当時の世の中の出来事を体感していたのだな、と判る。勿論若松孝二とは全く違う。

1970年、アンナの家族は、ママの両親の経済的影響力の下、パリでブルジョア的な生活を楽しんでいた。そこへ、父方の実家(スペイン)から、伯父の死を契機に伯母が助けを求めて逃げ込んでくる。
スペインはフランコ独裁の時代である。
アンナの伯父という事は、パパ、フェルナンドにとっては兄弟である。そんな近しい人物が、反体制活動によって死ぬ。
フェルナンドはこれが社会的な目覚めのきっかけとなる。
彼の胸には、スペインの同朋の為、民主化の為に、何もしてこなかったという負い目がある。
そして1968年のパリ5月革命でも、どうやら彼は蚊帳の外にいたらしい。

パパとママは、アジェンデの民主活動を見に南米チリに旅行に行く。
帰ってきた両親は、広い家と別れ、狭いアバルトマンに引っ越しする事を決心する。
アンナの生活は一変する。

旧い理念のミッションスクールはそのまま通うが、古えの話等が聞けて好きだった宗教の授業は受講しない事となる。両親が学校に申し入れをしたのだろう。マルキシズムはキリスト教を否定しているのだから。
ミッキーマウスの人形は捨てられる。アメリカ資本主義、経済的強者原理の象徴と見たのだろう。
こうして、周りに続けて上からもたらされる変化は、彼女のこれ迄の生活と全く異質で、理解のできないものばかりだった。

アンナは爆発し、「ぜんぶ、フィデルのせい!」という発言になる。
フィデルとは、勿論キューバ共産革命(1959)のリーダー、カストロの事。
アンナの家の家政婦はキューバからの政治難民で、彼女はカストロの革命を嫌い、事ある毎に悪口を口にし、”キョーサン主義”も”カク戦争”も、彼女からの秩序立たない聴き知識だったのである。アンナの好きな料理を作ってくれ、入浴を手伝ってくれたこの家政婦も、とうとう解雇されてしまう。

アンナの視線で、訳の判らない事共が、あれこれ取り上げられる。
映画はこれらの出来事を、批判的に捉えるのでなく、教育的に上から見るのでもなく、政治的な立場を強くというのでもなく、そのままカメラに収める。結果として、親の思いとアンナとの間に起こるそれら行き違いは、とても滑稽で、そして、時々もの悲しい。

デモに家族で初めて参加した時の警察隊の恐ろしさ。”ダンケツ”の意味が少し判る。
アジェンデ政権のチリ社会を蹂躙するクーデターのニュースが流れ、アバルトマンの窓から悲しそうに遠くを見る父親の手を取るアンナ。
いつしか何となくでもアンナは親の悩みを理解するようになる。
子供の成長は、うれしいものだが、しかし、少しもの悲しい。そんな気配がちょっと滲み出る。

この映画では、フェルナンドの負い目、大事な事に遅れてしまった思いがひとつのキーになっている。
この思いは、5月革命に間に合わなかったジュリーの思いでもあるような気がする。
尻尾世代の私は、この間に合わない感覚が、とても心に沁みるのだ、情けない感傷だと判っていても。
 
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