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2008年11月01日17:37

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●うみうし独語(287)/■遠い煙

■遠い煙

 ●きのう、いつものように夕方
  妙法寺の駅で降りる。

  トンネルとトンネルの間にある
  地下鉄のこの駅は、プラットホームに降り立つと
  谷あいから天を仰ぐかっこうになる。


  もう空は黒ずんで
  かすかに、夕闇のなかに
  たなびく雲の跡形がわかる。

  秋の冷気が
  漂う。


 ●息を吸うと、胸にしめっぽい
  つめたい空気が
  流れ込んで、私をひたしていく。

  その吸い込んだ息に、
  なにか懐かしさがあった。


  これは何だろう。
  空を仰ぎ、階段を昇り、改札を出て
  私は思い出そうとした。



 ●秋の夕暮れ、もう家に帰らないと
  暗くなってくる。


  田んぼのあぜ道から
  軒の低い家の台所あたりに
  灯りがともったのが見える。

  稲刈りがすんで、切り株の残った田んぼでは
  脱穀した後の、もみ殻を焼いていた。


  夕闇の中、誰もいない田んぼから、
  もみ殻の焼かれる煙が、冷気にまじって
  流れていた。


  

 ●遠い昔の、そんなことが思い浮かんで、
  ようやく
  懐かしさがどこから来たのかが
  わかった。


  このあたりに田んぼはないが
  どこからか
  漂ってきたもみ殻を焼くにおい。


  坂を登りつつ
  遠い煙のにおいをかいだ。



    
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