■風渡る
●「日が経つのは、ほんとに早い」と頭の中でつぶやいて
喫茶店を出たのは、もう何日前のことだろう。
通り過ぎた婦人が、日傘をさして
鼻歌をうたっていた。
朝、職場の前の大きなケヤキの木で
滝のように鳴いていたクマゼミが、
「きょうは鳴いてないなあ」と気づいたのは
何日前のことだったか。
「雨が降らないですねー」と言っていたら
その晩、雨が降った。
しとしと、静かに降っていた。
それから、また
暑い日が続いた。
空を見上げると、
白い雲が流れているようだった。
なんとなく「風渡る」と、つぶやいて
みたいような気になった。
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