■吉本隆明「ほんとうの考え・うその考え」
表の帯には、
「どんな思想や宗教の立場からでも理解できる普遍の場所」
「思想家・吉本隆明が追いつめる生涯のテーマ」
裏の帯には、
「<ほんとうの考え>と<うその考え>を分けることができたら、
その実験の方法さえきまれば、信仰も科学とおなじになる」
（宮沢賢治「銀河鉄側の夜」）
「もしある実験法さえ見つかって<ほんとうの考え>と<うその考え>を、
敵対も憎悪も、それがもたらす殺戮も含めた人間悪なしに
(つまり科学的に)、分けることができたら、というのは
わたしの思想にとっても永続的な課題のひとつにほかならない」
(本書「序」より)
そして、本の表紙
吉本隆明/春秋社
「ほんとうの考え・うその考え 賢治・ヴェイユ・ヨブをめぐって」
さらに、４８ページから４９ページ「宮沢賢治の実験」のくだり
「<その実験の方法さえきまれば>ということばは、とても重要で
それは日蓮も言わなかったし、もちろん最澄も智�擇盡世錣覆�った
ことで、宮沢賢治だけが言った言葉です。
・・・中略・・・
それならば、その実験方法とはなんなのか、なにを構想して
言ったのかはわかりません。・・・文脈からいけば、ふたつしか
意味がとれないわけです。・・・そういう実験ができる
ような装置をつくればいい。・・・これは比喩として聞いて
くださったほうがいいわけですが、その装置をつくって、そこに
どんな考えもみんな入れてボタンを押したら、<おまえの考えは
三割ほんとうだけど七割はうそだ>と出てきた。そういう装置を
つくることなのか、そうじゃなければ、じぶん自身をそういう
装置にしてしまう、・・・賢治の言葉でいえば、一心に勉強して
じぶん自身を<ほんとうの考え>と<うその考え>を分ける装置に
してしまうか、そのどちらかしかありえないわけです。たぶん
そのどちらかのイメージをもちながら、宮沢賢治はそういう
言い方をしたんだと思います」
(ちょっと引用が長いけれど)
■誰でもやってる、何かを信じてる
隆明は、どちらかと言えば、フランクに語るほうだが、
それでも平仮名の多用で、かえって読みづらく、思い入れ
たっぷりになっている。
要は、「現象学の方法」ということを賢治は手探りしていた、
また、自分が生身の体で「現象学の方法」を実践するしかない、
と思っていた、
ということを隆明は言いたいのだと私は理解した。
そして、そんなことは、庶民がみな、常日頃、ふつうに実践している
ことで、庶民はただ信じるより他になく、まして「実験」など
できるはずもなく、
だから、おカネがキツネの木の葉であるようには見えず
「貨幣」と素直に信じているように、ほとんどのことは、つまり
私たちの確信は、それはまるで「宗教」と同じように、ただ信じて
いるにすぎないのに、「事実」と錯覚しているのだということを
自覚的にやっていないだけのこと。
私たちは、ほとんど、どんなことも、信じるより他にない。
せめてできることは、「・・・ということになっておる」と
さめた感覚で、自分の置かれている状況を確認するくらいことだ。
賢治がえらいのは、身をもってその装置になり、しかも
精度のもっとも優れた人間装置を希求したところにある。
それは、日蓮が日本随一の智者を希求し、その日蓮が激しく
攻撃した浄土宗を「宗教解体」のぎりぎりまでもっていった
親鸞の希求とも相通じる、同質のえらさだと思う。
庶民は、そんなにえらくないが、庶民も賢治も日蓮も親鸞も
そして、この本にでてくるヴェイユもヨブも、みな同じ状況に
置かれている、ということ。
でも、もう省略して、感想だけをメモしておくのだが、
「賢治・ヴェイユ・ヨブ」と三人並んでいるのを見て、
私は直感的に、「不幸になりたがる人々」を思い出し、
「不幸になる考え」＝「うその考え」と誤解しそうになったことを
書いておく。
■次号(日々雑感49)を読む
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