３／２９上京のサードプログラムは、清澄白川の東京現代美術館、「中村宏／図画事件１９３５−２００７」。
マイmixiのかわさんに教えて頂いたもの。
かわさんの日記で中村宏を初めて知り、ネットで彼の絵を見るうちに、どうしても観ておきたい、観ないと後悔するかもしれないとの思いが強くなり、体力的にも、脳の活動としてもかなり無謀な計画になりましたが、オルセー，ダ・ヴィンチの後、脚を運びました。
中村宏は１９３２年、我が浜松生まれ。現在も活動を続けています。
初期のものに“ルポルタージュ絵画”とのニックネームがつけられましたが、彼の絵画は時代の表層との関わり(ここからタイトルの“事件”という言い方が出て来るのだろう)、しかも視的な関わりに特徴がある。
画面に繰り返し現れる、セーラー服のエロティックな一つ目の少女、双眼鏡の画像、車や機関車の連続した窓、コックピット、工事現場に置かれる黄色と黒の注意標識、そしてついには、双眼鏡で自分の絵を見るセーラー服のマネキンの少女を自分絵の前に立たせもする。波動は全て見るという事に連なっていく。
本来は‘見る’でなく、‘観る’でもなく、‘看る’でもない、‘視る’だろう。
視られた物が画面に現れ、視る者の視点が現れ、視る事の意味や価値や感性が現れる。そして更にその画面を鑑賞者が外から視る事になる。
この瞬間にこそ‘事件’が発生し、描かれたものが初めて「作品となる」のだろう。「いつ作品となるのか？」これは彼の繰り返す問いです。
今を生きている人の総論は難しい。
しかも大きな変化を年と伴に重ねていく人です。
私が視たバラバラの散漫な印象をいくつか。
『都市計画』(1958)
新聞がコラージュされて塗り込められている。
よくよく見ると三船敏郎の連続写真。これは黒澤明の『生きものの記録』(1955)のカットだろう。核兵器の脅威問題を扱ったもの。同時代の事件を画中に閉じ込みたかったのだろう。
初期の代表作『砂川五番』の３年後の作品。
『ＡＩＲ=スフマート漸進No．０.１９ Type３』(1976)
ここで‘スフマート’が出てくるとは！
スフマートは前日の日記で書いた、レオナルド・ダ・ヴィンチのぼかし技法の事だ。
この１９枚の連作では、１９枚が１枚々々で徐々にスフマートされていく。
世の中の出来事には輪郭線は引かれていない。
事件はいつの間にか変貌し姿を変える。
早稲田大学大学祭のポスター、パンフレット。
何だか見覚えがあると思ったら、１９７２年とある。私の在学中のものだ。
その前後で私も演劇研究会大学祭公演のポスターを描いている。
『胎内』／三好十郎，次年は『狂人なおもて往生をとぐ』／清水邦夫。
あのポスターは賛否両論だった・・・等と取りとめもない事共を想い出す。
２０歳年上だが、同時代性を感じる。
そしてその隣には、何と夢野久作全集がガラスケースの中に鎮座している。
つい先日私が図書館から取り寄せて読んだ三一書房版だ。
この装丁が中村宏だったとは、驚き！
日々ボーッとしているのを証明しちゃったようなものだ。
それにしてもいろんな縁が身の回りに転がっている。
機関車や飛行機、船と一体化した人物がモチーフとして何回か現れる。
これも縁か。ついこの前観た「石田徹也遺作展」に同じようなモチーフがたくさんあった事を想い出す。
石田の一体化人物は恐らく自分自身だろうが、中村は外からこの人物を視ている。石田は自分の内側に沈潜するが、中村は視る対象として、エロティシズムの対象として、自分の外にそれらを捉えている。
同じモチーフを創り出しても、作者の心は随分異なるものだ。
・・・等々、投げ散らかしたような私の感想よりも、かわさんの日記を是非ご覧頂けたらと思い、下にＵＲＬを貼ります。
拡散したイメージをかわさんの文章と添付写真で統合し直して下さい。
http://mixi.jp/view_diary.pl?id=382338862&owner_id=900979&comment_count=8
さて、おまけのお駄賃。
過分のお駄賃を現代美術館でもらってしまいました。
舟越桂の彫刻が３作置かれていたのです。
今迄舟越の作品には、天童荒太の『永遠の仔』の表紙で初めて邂逅した後、今に到る迄生で触れた事がなく、何処へ行ったら観れるのか探していたところなのです。この願いが、計算もしていなかった時と場所で急に叶ったという訳です。
作品は『静かな向かい風』（1988），『途切れないささやき』（1990），『遅い振子』（1992）。
遠くから憧れていた人に、思いがけなくまみえたような気持ち。
半身の恋人にそっと触れてきました。
添付写真は前が中村宏展のポスター、後ろが舟越桂の作品。
但し今回触ってきたものではありません。タイトルは『水の上の振子』。
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