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2024年04月18日17:11

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「しろがねの葉」

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世界遺産にも登録された石見銀山の名前は知っていましたが、戦国時代から江戸時代にかけて、世界を動かすほどの産出を誇った鉱山であったとは知りませんでした。
一時は世界の銀の産出量の三分の一を、この石見銀山が賄っていたといいます。
最盛期のそこを舞台とした、女性ウメの視点で語られる物語。

戦国末期、貧しさから夜逃げした両親とはぐれ、山の中で天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメ。はしっこい彼女は銀山の知識を授けられ、女だてらに坑道で働き出したが、男たちの欲望、差別、侮蔑の目が容赦なく向けられる。一途に慕う喜兵衛からは相手にされず、堀子として働くことは許されず、ついには他の男から凌辱され、身籠ってしまう…

粉塵と瘴気の中で仕事をする掘子たちは成功すれば金を得るが、肺を病み、事故もあり、寿命は非常に短かったのだそうです。
それでも男たちは、暗い間歩(まぶ)の中で何故掘り続けたのか?
望む仕事もできず、愛する者を何度も見送り、それでも何故ウメは生きたのか?
「人は何故生きるのか」という大命題の本を、久しぶりに読んだ気がします。
島根県太田市の石見銀山とはまるで違いますが、尾花沢市の延沢銀山の近くの銀山温泉に行ったことがあります。
木造の建物が建ち並ぶ温泉街に大正時代の雰囲気は感じたものの、そこで働いた人々がどんな思いでどんな暮らしをしていたのかなんて、考えもしませんでした。

最終章、老齢のウメの独白。
「どれくらい経ったのだろう。
もうこの山には誰もいない。谷の家々が朽ち、草葉や木々に呑み込まれていく。無数に穿たれた穴が風に哭く。
それでも、待っている。
指先すら見えない昏い間歩の底から、男たちがわたしの名を呼ぶのを。慈しんだ男たちは皆、あの無慈悲で温かい胎闇にいる。そこにわたしも還るのだ。」
千早茜著、第168回直木賞受賞作。

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