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2024年02月26日20:04

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【読書】 最近読んだ本 備忘禄

最近読んだ本の、備忘的メモ。

●「何のための数学か」 (モーリス・クライン著/雨宮一郎訳、紀伊国屋書店)

数学本来の姿とは何かを問うために、古代からケプラーに至る天文学、ニュートンの力学、電磁気学、アインシュタインの相対論、量子論などを絡めて、自然界の構造の探求に数学がいかに大きな役割を果たしてきたかを述べている本である。十九世紀はじめまでは、外界の現象が数学的法則にしたがって運行する機械として説明される考え方が支配的だったが、その後は「機械論的説明」は消えてしまう。しかし、数学に依存することには変わりなく、むしろ数学こそが外界を理解する唯一の手段になっているのである。自然との絆を断った、行き過ぎた形式主義によって空虚な理論構成をすることが数学なのではない。そして、数学が今後も発展しつづけるには、自然とのつながりを見失わないようにしなければならないと結ぶ。数学に携わる人に向けた好書である。


●「世にもあいまいなことばの秘密」 (川添愛著、ちくまプリマー新書)

日本語はあいまいな言い方が多いといわれる。同じ言い方でも、違った解釈が可能だったりして、それが原因ですれ違いや争いが生じることさえある。「結構です」は肯定か否定か、「冷房を上げてください」は設定温度を上げたいのか下げたいのか、「私には双子の妹がいる」という人は双子のうちの一人なのか双子の2人の姉なのか、「2日、5日、8日の午後なら空いている」という人に2日の午前中に予定を入れてよいか、等々、具体的な例を挙げつつ、その曖昧さを面白く解説していく。著者は曖昧なのが悪いとは言っていない。むしろ、効率的なコミュニケーションが可能になっていると言う。要は、どのような場面で発した言葉なのかを理解すればいいのだ。曖昧さを楽しみ、面白く感じるのも悪いことではない。


●「大楽必易 わたくしの伊福部昭伝」 (片山杜秀著、新潮社)

伊福部昭に心酔している音楽評論家による伊福部昭伝である。若い頃、伊福部昭宅を何度も訪問してはいろいろな話を聞いていたが、それをいつかは1冊の著作にまとめるという長年の「宿題」を、ようやく果たしたものということである。すでに多くの伊福部昭伝は出ているが(しかも、多くは片山杜秀が関わっている)、この本では伊福部の生々しい言葉が随所に登場し、伊福部の音楽に対する考え方や、その背景などが手に取るようにわかるという、伊福部ファン必携の本といえる。伊福部といえば「ゴジラ」の音楽というイメージが強いが、あの一度聴いたら忘れない旋律にこそ、伊福部音楽の真髄があるのだ。そして、伊福部音楽は「大楽必易」という言葉に集約されるのである。


●「とにかくうちに帰ります」 (津村記久子著、新潮文庫)

会社の職場を舞台にした短編小説集である。といっても、そこに描かれているのは、どこの会社でもありそうな「取るに足らないような」日常風景である。標題作は、大雨で交通機関が麻痺している時に、埋立洲にある会社から、仕事を早めに切り上げ、自宅に帰ろうとするだけの話である。あれやこれやと、ぶつかり合い結び付きながらも、とにかく帰ろうとする人たち。絶対に家に帰りたい事情もあったり、どうでもいい人もいたりする。他に、事務仕事を行う女子社員の「心構え」の話、職場のおじさんに文房具を返してもらえない話、インフルエンザ流行時の職場の話、微妙な成績のフィギュアスケート選手のファンという「共通の話題」で盛り上がるというよりも、なんとなく微妙な雰囲気になるなど、こういうところだけを切り出して一篇の小説にすると、それがリアリティを持って共感を呼ぶ話になるようだ。なかなか面白かった。


●「地名の原景」 (木村紀子著、平凡社新書)

地名の一つ一つには、その原風景というものがあり、半ば無意識に呼び続けてきた人々の声が響き合っているのだという。日本列島の原景語ともいえる、ノ・ヤマ、ヤマ・カハ、ウミ・ヤマ、ハラ、エとウラ、シマとクニ、アメ・ツチについて、それらが意味するところを万葉集や神話などから見出し、国名以前の地名と国名の生い立ちや、いわゆる「好字を用いて二文字」で消えた風景に言及する。そして、「色」、「犀」、「象」、「尼」など、先史を秘めた当て字地名について探っていく。漢字で表記されることにり、その字面に引きずられて解釈してしまいがちだが、本来の意味を考えていくと、そこに原景が見えてくるのだ。私も何度か書いているように、意味のある古来の地名を捨てて、おかしな新地名を創出してしまっては、見えるものも見えなくなってしまうと思う。
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