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2024年02月11日12:00

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大阪行③「女性画家たちの大阪」その2

(続き)

◆第2章
島成園が1912(大正元)年20歳で文展に入賞した事は、大阪で画家を目指す多くの若い女性を鼓舞したと先に述べた。
成園に続き、岡本更園(1895-？),木谷千種(1895-1947),松本華羊(1893-1961)が1915(大正4)年迄に文展入賞を果たす。
この4人は井原西鶴の『好色五人女』を共通テーマに、1916(大正5)年「女四人の会」展を三越呉服店大阪店で開催し新作を発表した。
小川知子の章解説によれば「若い女性による生意気な行動だと不興を買いもしたが、因習的な美術会に新風を吹き込む胸のすくような快挙であった」と。
下は大正５年の展覧会場、それぞれの作品の前に立って記念撮影。左から岡本更園,木谷千種,島成園,松本華羊。

本章では4人の作品を合計31点観る事ができる。
彼女らは、「女四人の会」展以降も、様々な賞を受賞し、評価を高め合う。

1918(大正7)年制作、木谷千種の《をんごく》。第12回文展入選。

「おんごく」とは、盆の時期に町を練り歩きながら歌う大阪の伝統行事。
この年の初夏に千種は一番下の弟を3歳で亡くしている。うしろ姿は千種本人であろうか。彼女は隙間から表通りに見える幼子に、弟をだぶらせている。

次も同年頃と推定されている松本華羊の《殉教》。

岡本綺堂の新作歌舞伎『切支丹屋敷』(1913年初演)を観て描いたであろうと想像される。
江戸時代、棄教を拒否して処刑を待つ切支丹の遊女朝妻。粗ムシロの上に、手鎖をされた状態で座り、最後の桜を静かに眺めている。
「ジャガタラお春」を描いたとの説もあったが、着物に「朝妻」との柄が描き込まれている。
第12回文展では落選となった。

◆第3章
この時代、女性画家達は、南画や花鳥画でも活躍した。
跡見花蹊,河邊青蘭他、合計16名、29点。

◆第4章
本章では生田花朝と関係画家の作品23点を展示する。

生田花朝(1889-1978)は菅楯彦の下で大和絵、島成園とも深い交流があつた北野恒富の下で人物画を学んだ。
3歳年下の島成園の成功に発奮して官展を目指すが、1926(大正14)年36歳を迎える年に帝展に初入選と遅かった。しかし、翌年には女性として初の特選を受賞。
花朝はよく郷土大阪の風俗や芸能を画題とした。中でも、天神祭や船渡御、また四天王寺を繰り返し描いた。
先に掲げたリンクの6)の②に《天神祭》の画像(部分)と僅かばかり解説あり。

帝展(第6回)初入選の《春日》(所在不明)は四天王寺の彼岸会を、1927(昭和2)年、第8回帝展無鑑査出品の《四天王寺聖霊会図》は境内を鳥瞰するパノラマ構図で描いた。
以下、後者画像。

毎年聖徳太子の命日(2/22)に行われる聖霊会。その日、講堂の手前(北側)、亀の池に挟まれた石舞台では、多くの見物客の中心で賑やかに舞楽が演じられている。
私はこの四天王寺に翌日訪れる事になっている。

◆第5章
島成園は画塾「成園塾」を開き、若い女性を受け入れた。中には東京や高知等遠方からの入門者もいた。
成園は1916(大正5)年24歳の時、既に画塾のための広い家に転居する等、早くから後進の教育を志していた。
1918(大正7)年に門下生達と撮った集合写真が残されている。

最前列右端が成園。
高い能力の認められる門下生には「成」の字を入れた雅号を授けた。
木谷千種も「八千草会」で後進を指導し、同じように「千」を入れた雅号を授けた。
秋田成香,伊藤成錦、原田千里,狩野千彩は帝展に入選、子女の手習いの域を凌駕している。
本章では、彼女らの門下生を含む、30名を超える新進の女性画家から60点強の作品が集められた。
つい最近の発見でまだ詳細の分からない人物・作品もあり、今後の研究が必要だ。

下は金澤成峰の《哀しみ》。大正後期～昭和前期の作か。

雅号から島成園の門下生という事は分かっているが、生没年含め詳細は不明。タイトルも本展の仮題である。
白無垢の振袖に、打掛を左だけ通している。または脱ごうとしているのか。
豪華な髪飾り、しかし、簪の代わりに刺さる折れた矢は一体何を意味しているのだろう。髪もひどくほつれている。
成園の画風と共通点が感じられもする。

最後に少し書き足しておくが、大阪には、女性が絵を学ぶという素地が江戸時代からあった。彼女らの多くは、船場の「御寮人(ごりょん)さん」や、その娘「いとさん」「こいさん」を始め、絵だけでなく習い事に費用と時間を充てられる富裕層であった。
画塾で絵を学ぼうとする若い女性の大半は、高い教養を身に着けるため、手習いの延長として門に入った。彼女達は、高等女学校に通い、在学中に縁談がまとまれば、卒業を待たずに退学したり、画塾もやめてしまうケースが多かった。
しかし、最初から職業画家を志す者達も中にはいた。当初は手習いでも、画家を目指そうと方向転換する者もいた。
前者の代表格が島成園であり、後者の代表格が木谷千種である。

成園は父栄吉が町絵師、兄御風は図案家で、当初から画家になるとの覚悟が備わっていた。実際、父が早くに引退したあとは、兄と成園が家の生計を立てていたのである。
そんな彼女にとって、銀行マンとの結婚はどんなものであったろうか。定収入は確保されたけれども、転勤が多かった事は先に述べた。彼女の芸術にとって大阪という土地の意味するものは、小さくなかった筈だ。もし結婚しなかったら、という仮定に意味はないが、彼女の人生における制作の質と量は大きく異なっていたに違いない。
生田花朝等は生涯独身で通し、多くの作品を世に出し、女性画家グループの結成に尽力し、勲章を含む多くの賞を得、また画塾を開いて後進を指導した。
画塾の開設は成園も同じだが、海外を含む転勤生活の中で画塾経営はどのように折りを付けていたか、また、夫森豊治郎の人となり等、分かっていない事もまだまだ多い。今後の研究の進展を期待したいと思う。

〈参考資料〉
・図録『女性画家たちの大阪』
　執筆小川知子(『女性日本画家をめぐる考察～三都のなかの大阪』)、北川久(『女性日本画家･島成園とその周辺～女四人と、成園･成香の帝展初入選などをめぐって』) 他
　発行 2023年、中之島美術館,産経新聞社他
・音声ガイド
　制作アコースティガイド･ジャパン

(続く)
　

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