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2024年02月04日12:00

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シェレンベルガー&シュースオーボエとハープリサイタル

2/2(金)、アクトシティ浜松中ホールで行われたシェレンベルガー(オーボエ)とアナ･シュース(ハープ)のリサイタルを聴く。

ハンスイェルク･シェレンベルガー(1948- )はミュンヘンに生まれ、ケルン放送響やベルリン･フィルの首席オーボエ奏者、その後は指揮者、ソリスト、教育者として活躍している。
2021～23年はベルリン響の首席指揮者を務め、23年6月には日本ツアーも行った。
1994年から3年に1度開催される国際オーボエコンクール･東京の審査委員長でもある。

マルギット=アナ･シュースもミュンヘンで生まれ、ハンブルク北ドイツ放送響やバンベルク響、ベルリン･フィルでソロないし客演ハーピストとして活躍、2017年からはグラーツ音大の教授として後進の指導にも当たっている。
私生活ではシェレンベルガーの妻。

オーボエとハープのリサイタルというのはなかなか生で聴く機会がないので、当夜は愉しみにしていた。
今回の来日では東京、浜松、京都、岡山でデュオリサイタル、兵庫、岡山では、協奏曲や交響曲その他を指揮及びソロを行う計画になっている。

プログラムは、前半でバロックから古典派前期、後半でロマン派から近現代に至るというもので、各時代の音楽の特徴を、デュオ、独奏、またイングリッシュホルンへの持ち替え等を絡めて大いに愉しませた。

1) ソナタト短調Wq.135(カール･フィリップ･エマヌエル･バッハ)
2) 無伴奏オーボエのためのパルティータト短調BWV.1013(ヨハン･セバスティアン･バッハ)
3) 幻想曲ハ短調Op.35(ルイ･シュポーア)
4) ソナタハ長調BWV.1033(J･S･バッハ)

　～休憩～

5) ソナタニ長調Op.166(カミーユ･サン=サーンス)
6)《オウィディウスによる6つのメタモルフォーゼ》Op.49(ベンジャミン･ブリテン)
7) 即興曲変ニ長調Op.86(ガブリエル･フォーレ)
8)《ベッリーニのオマージュ》(アントーニオ･パスクッリ)

1)はオーボエと通奏低音のために書かれた曲だが、当夜はオーボエとハープで。
C･P･Eバッハ(1714-88)は大バッハの次男で、バロックから古典派への過渡期に活躍し、父以上の名声を博してプロイセンのフリードリヒ大王の宮廷音楽家ともなった。
アダージョ、アレグロ、ヴィヴァーチェの3楽章でなる。
第1楽章はオーボエがもの悲しい旋律を情感豊かに歌う。
第2楽章は付点リズムが効果的なきびきびした音楽。
第3楽章はメヌエットで、低音の声部を主題とする3つのシャコンヌ変奏が続く。

2)、原曲はJ･S･バッハ(1685-1750)唯一の独奏フルートのための組曲だが、元々は別の楽器のために書かれフルート用に書き直したとの説もある。当夜はオーボエソロにて。
和音を演奏できない旋律楽器でポリフォニックな効果を狙うために求められる至難の技を、シェレンベルガーは、整然と曇りなく演奏した。
アルマンド、クーラント、サラバンド、ブーレ･アングレーズの4楽章でなり、当時の通例であるジーグで終わる形式を採っていないのは何故か？
フルートの名手オーレル･ニコレは、無伴奏チェロ組曲第5番のジーグをこのあとにつなげる工夫をした。

3)、シュポーア(1784-1859)は、19世紀前半にドイツ随一のヴァイオリニストとして知られ、指揮者としても作曲家としても活躍した。今ではあまり演奏されないが、大変な多作家で、あらゆるジャンルの曲を書いた。
ハープ奏者と結婚したため、その翌1807年にハープソロのための本曲を作った。
シュースは即興風なアルペッジョでハープの魅力を引き出し、ロマンティックなメロディを呼び寄せる。

4)の原曲はフルートと通奏低音のための作品だが、当夜はオーボエとハープにて。
C･P･E･バッハが残した写譜に「J･S･バッハの作品である」と書き込んであるために、大バッハの曲として扱われてきたが、内省的というよりも社交的、ポリフォニーより古典的な平明性が表に出ていて、近年は、父の指導の下で、次男もしくは弟子が書いたとする説が有力になっているらしい。
アンダンテ～プレスト、アレグロ、アダージェット、メヌエットの4楽章でできている。
最終楽章は2つのメヌエットで構成され、その快活さに自然に体も動く。

休憩を挟んで5)へ。
サン=サーンス(1835-1921)は、オペラ中心だった19世紀のフランス音楽界にあって、最晩年の1921年には、レパートリーに恵まれていない楽器のために作品を書いた。このオーボエとピアノのためのソナタに続いて、クラリネット、ファゴットのソナタを作曲。他の木管楽器のための計画があったようだが、残念ながら残された時間がなかった。
今回はこれをオーボエとハープで演奏する。
アンダンティーノ、アレグレット、モルト･アレグロと、だんだんにテンポを上げる3つの楽章で構成されている。
第2楽章は、主部の前後を小節線なしのad libitumと指示されたカデンツァ風部分が囲むのが面白い。
第3楽章は3連符のモチーフが軽快なロンド。
80歳のサン=サーンスの簡明清澄さが窺われる。様々な評価のある人だが、最晩年に良い仕事をした。

6)は20世紀英国のB･ブリテン(1913-76)による、オーボエ独奏の詩のような曲。
帝政ローマの詩人オウィディウスの『変身物語』を題材にしている。
第1曲は〈パン〉。水の精シランクスが牧神パンの求愛を拒み、葦に変身する。パンはその葦で笛を作って吹きながら、彼女を偲ぶ。オーボエで吹かれる事こそ相応しい。
第2曲は〈フェートン〉。軽快な日輪馬車を一日中乗り回すフェートンが、ゼウスの怒りの雷でパドゥス河に突き落とされる。
第3曲は〈ニオベ〉。ニオベはゼウスが愛した最初の人間。14人の子供を失って山に変身したニオベの悲嘆。
第4曲は〈バッカス〉。酒の神バッカスの饗宴。女達のおしゃべりと少年たちの歓声。
第5曲は〈ナルキッソス〉。水面に映る自分の姿に恋をし、スイセンの花に変身してしまうという良く知られた物語。本人と水面に映る姿を、音の高さの違いと鏡によってひっくり返った音型とで表現する。
第6曲は〈アレトゥーサ〉。河の神アルフェウスの愛から逃れるために泉に姿を変えるアレトゥーサ。その幻想的イメージをアルペッジョ風音型の連なりで描く。

シェレンベルガーはステージ前の縁近く迄出て、個別物語について解説しながら演奏を進めた。

7)はG･フォーレ(1845-1924)が、1904年にパリ高等音楽院の試験の課題曲として書いたハープ独奏曲。フォーレ自身によるピアノ編曲版もよく演奏される。
ハープの美質がよく生かされていて、流麗な織物のように表情が変化していく。

8)はハープとイングリッシュホルンのオリジナル･デュオで、シェレンベルガーはオーボエから持ち替えをして登場。
イタリアのA･パスクッリ(1842-1924)は”オーボエのパガニーニ”と呼ばれた名手で、ドニゼッティやヴェルディのオペラの主題を使って讃歌を作った。
この曲にはベッリーニのベルカント･オペラ《夢遊病の女》等、良く知ったメロディが出てきて、最後を盛り上げる。

プログラム(歴史と編成)の工夫に加え、高雅にしてサウンドに広がり感のあるシュースのハープと、しっとりとした声の如きシェレンベルガーのオーボエ(及びイングリッシュホルン)のデュオは、よくマッチして、会場の聴衆を愉しませてくれた。

続く拍手に応え、アンコールには以下の2曲。

・《黒鳥の歌》W.103(エイトル･ヴィラ=ロボス/1887-1959)
原曲はチェロとピアノのデュオ。当夜はイングリッシュホルンとハープにて。

・《リーダークライス》Op.39より第5曲〈月の夜〉(ロベルト･シューマン/1810-56)
原曲は男声とピアノのための歌曲。当夜はオーボエとハープにて。
　
終演後の舞台。ハープの美しい事！