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2023年05月04日23:47

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見切り発車小説『流れ弾』

何にも考えずに書き始め、書きながら話を作っていくという、いい加減な手法の短編小説。

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見切り発車小説『流れ弾』

 適当に空に打ち出された弾丸がどこへ行くのか追ってみたいと思ったのだが、弾丸と同スピードで空、あるいは地上を進んで追うことも出来なければ、弾丸を射つ銃なども手に入れる事が出来ない。仕方がないので、パチンコで玉を打ち上げ、実際に放物線を描いて想定の範囲内の場所に到着するのかを確かめた。そして、弾丸はこれより飛距離があるだけで、何ら結果が変わる事なく、地中に埋まるか、硬い面で跳ね返り、運が良ければ、地面で跳ねながら、次第に速度を弱め回転しながらただの鉄屑になるだけだろう。しかし、運が悪ければ、想像に現れるのは、
 孫が初めて帰省してくるというので、自分の祖母の姿を少しでも綺麗に記憶に残しておけるよう、孫のために、否、自分の為にいつもより遠くにある料金の高い美容室へとタクシーを呼んで出かけた。美容室では、高い声を出す愛想の良い若い女性が老女の好む話を膨らませ、彼女が楽しんでいられるように振る舞いながら、薄くなった髪を神技のように盛り上げふさふさにして見せてくれた。とても気を良くした彼女は、久しぶりに以前職場で仲が良かった林という男性に連絡をとって夕食を一緒にと考えた。普段自分の娘くらいにしか電話をかける事がない彼女は、以前その男性に登録してもらった連絡先をスマートフォンから見つけ出そうとするのだがどうにも要領を得ない。困り果てた彼女は、丁度すぐそばを通り過ぎようとしていた男に声をかけた。
「あの、申し訳ありませんが少々お時間をいただけませんか?」
 通りすがりの男は怪訝な顔で少し体をのけ反らせ、左手で彼女を制した。
「ああ、宗教はやりませんから、私はね、無宗教で、いや、自分を信じてこれまで生きてきた。あなたはあなたの信じる宗教に救われたのだろうが、私は私の信じる道を生きて行きます。どうぞ構わないでいただきたい。」
 老女は呆気に取られていたが、その毅然としていながらも少しばかりの優しさが感じられる物腰に、長い間忘れていたときめきを感じた。
「すみません、わたくしも宗教とはほぼ無縁でございまして、ただ、電話のかけ方をお教えいただければと思い、失礼ながら声をかけさせていただきました。」
 男はわずかに顔を赤らめ、合点が入ったように笑った。
「何と何と私はてっきり押しつけの勧誘かと思ってしまい失礼な事を致しました。さて、電話のかけ方とおっしゃいますと、」
 彼女は訳を話し、男にスマートフォンを差し出した。
「なるほど、焼け木杭を掘り出してくれとおっしゃるんですね。わかりました。では。」
 男はスマートフォン上で指を滑らせ、早くも林という男の電話番号を押して素早く彼女に手渡した。
「ハイハイ、もう番号を押しましたから耳に当てて下さいよ。」
 彼女がお辞儀をしながら頬を膨らませていると、どこかでかすかな振動音がしていることに気づいた。
「あら、おたく様のお電話が鳴ってませんか?あの、バイブレーションっていう、」
「え?あ、ほんとだ、確かに私の、」
 男はスマートフォンをポケットから取り出して電話に出た。
「ハイハイ、林ですが、あなたはどなた?」
 彼女はまたもや呆気に取られていた。
「いやいや、ちょっと、まだ気づかないの?中井さん、林だよ、林。もう、俺の頭が涼しくなってるから気づかないって?冗談じゃないよ、あんなに仲良かったんだからさ、あら、林くんに似てるわね、くらい思ってくれてても良かったんじゃないの?」
 ようやく彼女は満面の笑みで答えた。
「ちょっと林君なの?イヤンもう、いつから気づいてたのよ、意地悪ねえ、ずっと心の中で笑ってたんでしょ。」
「電話のかけ方をって言われてさ、で林だろ?んなもの幼稚園児でも気づきますわい。相変わらず中井さんポーッとしてんだなあ。しかしまあ、こんな所で再会するって何だか流れ弾に当たるくらいのあり得ない確率だなあ。」
「ホントね、何その流れ弾って。」
「いやあ、こんな運が悪い事は初めてってね。」
「まあ、相変わらず失礼だわあ。ねえそんな事はどうでも良いから、今からデートしましょ。」
「良いね良いねえ、中井さんの髪もバッチリ決まってるし、こっちも床屋に行ってきたばっかりだし、何から何までタイミングバッチリだね、ついでに結婚しちゃうか?」
「そうね。」

-----終わり-----
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