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2023年03月23日21:32

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マテウス･クシジョフスキピアノ･リサイタル

3/22(水)、アクトシティ浜松音楽工房ホールでマテウス･クシジョフスキのピアノ･リサイタルを聴く。
アクトシティ浜松友の会会員向けの特別企画で、抽選に当選した50名が招待された。

マテウス･クシジョフスキは1999年、ポーランド南部の都市のティヒに生れた。
　　

3年に1度開催されるパデレフスキ国際ピアノコンクール、その第12回(2022)で優勝。その時22～23歳の計算になる。(日本人では奥井紫麻が入選。)
応募者は28ヶ国150名。マテウシュはこのコンクールに優勝した初めてのポーランド人だったそうだ。
審査員は、ラファウ･ブレハッチ、ダン･タイ･ソン、小川典子他。
このコンクールでは予選～本線の何処かでパデレフスキ作品を演奏しなければならないルールとなっている。
マテウシュはこのファイナルでシマノフスキの《協奏交響曲》(交響曲第4番)Op.60を演奏した。大変に珍しい選曲だ。
小川典子はこう彼とプログラムをを評している、
「工夫を凝らしたプログラムで個性を強く打ち出し、堂々たる演奏を聴かせた。特に本選でシマノフスキの珍しい協奏交響曲第4番を弾いた事に、彼の考えやポリシーがよく伺えた」。
一方、マテウスはこのコンクールでショパンを1曲も弾かなかった。これも大変に意図的だ。
本人は言っている、
「ポーランドにはショパンだけでなく、パデレフスキやシマノフスキといった素晴らしい作曲家がおり、彼等の音楽を紹介する事に使命感を感じている」。
また、
「コンサートのプログラミングでは、全体につながりができるようにストーリーを作る。文脈に会わない曲は入れないようにしている」。
「私は音色にこだわって演奏したい。作曲家の意図や意見、こだわりを音で表現したいと考えています」、とも。

今回の来日では、3/20にまずポーランド大使館で記者会見が行われ、そのあと同館内でリサイタルが行われた。
その後、3/23にベルサール虎の門で「PTNA公開録音コンサート」、3/24にRISTRANTE PEGASOで「日本パデレフスキ協会第9回ディナー&ピアノコンサート」が行われる。
私が今回聴いた浜松のリサイタルはこの間の3/22にセットされたという事になる。

プログラムは以下の通り。

イグナツィ・ヤン・パデレフスキ(1860-1941)
　作品集《ミセラネア》より
　　～第5曲〈伝説第2〉
　　～第6曲〈楽興の時〉
《演奏会用ユモレスク》より
　　～第2曲〈サラバンド〉

カルロ・シマノフスキ(1882-1937)
　４つの練習曲Op.4より
　　～第1番変ホ短調
　　～第2番変ト長調
　　～第3番変ロ短調
　　～第4番ハ長調
　幻想曲ハ長調Op.14

　　～休憩～

フレデリック・ショパン(1810-1849)
　スケルツォ第2番変ロ短調Op.31
　バラード第1番ト短調Op.23
　24の前奏曲Op.28より
　　～第20番ハ短調
　夜想曲Op.48より
　　～第13番ハ短調
　　～第14番嬰ヘ短調
　24の前奏曲Op.28より
　　～第11番ロ長調
　ポロネーズ第6番変イ長調Op.53《英雄》

3/20のポーランド大使館もこれと殆ど同じプログラムで、シマノフスキの幻想曲と、ショパンではポロネーズ《英雄》以外をやめている。
3/23のベルサール虎の門では、シマノフスキの幻想曲をやめて、モーリッツ・モシュコフスキ(1854-1925)の15の練習曲より第4番と第11番を入れている。

浜松ではプログラム終了後、アンコールにショパンを2曲演奏した。
　ワルツ第2番変イ長調Op.34-1《華麗なる円舞曲》
　12の練習曲より第5番ホ短調Op.25-5

アンコールを含めて、オールポーランドである。

ショパンはもういいとして、パデレフスキとシマノフスキについて少し書いておく。

パデレフスキは専らショパン全集の編纂者として知られているが、ピアニスト・作曲家だけでなく政治家としても活動した。
第1次世界大戦勃発後は、パリにおいて「ポーランド民族委員会」で活動し、「ポーランド回復基金」を設立した。
第1次大戦後の独立ポーランドにおいて、彼は首相と外務大臣を兼務し、パリ講和会議にも出席、その後国際連盟の自国大使を務めた。
政界引退後は音楽活動に復帰し、再び成功を収めた。
晩年は、第2次世界大戦でドイツ・ソ連がポーランドに侵入したため、パデレフスキはロンドンの亡命政府の指導者となった。
そして、ポーランド回復基金のための演奏活動の中、1941年6月にニューヨークで客死した。
作品は多くはない。作品番号は24迄。

《ミセラネア》は1888年頃の作品。ウィーンでピアニストとしてデビューした年である。全7曲の小品から成っている。
英語の“Miscellanea”は「種々雑多なもの」とか、「寄せ集め」とかの意味だが、この作品集もそうした意味と理解していいのだろうか？…不明。
～〈伝説第2〉は6/8拍子の夢想的音楽、遠隔転調が多い。
～〈楽興の時〉はシューベルトの小品で知られるタイトルだが、この曲も拍子、調、リズムがよく似ている。

《演奏会用ユモレスク》は3曲ずつ2巻で成っている。第1巻は「古風に」、第2巻は「モダンに」と副題が付いている。
～サラバンドは第1巻に含まれており、スペインのゆっくりとした3拍子の宮廷舞踊に由来している。サラバンド特有のリズム箇所に奏される和音は全てアルペッジョで弾くようになっている。

シマノフスキは殆どヴァイオリン協奏曲第1番しか聴いた事がない。
ヴァイオリンをダヴィド･オイストラフ、ジャニーヌ･ヤンセン、イザベル･ファウストが奏したものはそれぞれ魅力に満ちていた。
以下その順にレポートをリンクしておく。シマノフスキについても書いているので参照頂けたら幸いだ。
　2012年 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1831208425&owner_id=3341406
　2019年 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1973243316&owner_id=3341406
　2021年 https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1980126224&owner_id=3341406

ヴァイオリン協奏曲第1番は1916年に書かれた。34歳の時の作品。
一方、今回のピアノ曲は、４つの練習曲が1900～02年、18～20歳、幻想曲が1905年、23歳の時作られた。
ワルシャワで作曲を学び始めた若い頃の作品で、ショパン、リスト、ブラームス、ワーグナー、スクリャービン等の影響のあとがそれぞれに見られる超絶技巧の練習曲である。
～第1番アレグロ･モデラートは平行6度音程の和音の上下行が全体を支配し、その響きが何とも気持ち悪い。
～第2番アレグロ･モルト(レッジェーロ･エ･ヴェローチェ)は右手が6/8、左手が3連符の2/4のポリリズム。そして目まぐるしい転調もあって落ち着かない。
～第3番アンダンテ、イン･モド･ドゥナ･カンツォーネはパデレフスキが好んで演奏したため有名になった。哀感のある美しいメロディ。
～第4番アレグロ･マ･ノン･トロッポ、アフェトゥオーゾ･エ･ルバートは半音階を多用した和声進行の上に、付点の跳ねる旋律がドルチェで歌われる。

幻想曲は、グラーヴ、ノン･トロッポ･アレグロ、アレグロ･モルトの３つの楽章で構成される15分近い大曲。
冒頭と最後に、#Fの超低音が引き伸ばされるモチーフがあって、その気味悪い響きが全体に統一感を持たせている。

マテウス･クシジョフスキは、プログラムを構成する意欲は大変に素晴しかったが、疲れていたのか体調が芳しくなかったのか、やや粗さが目立った。
　

〈参考資料〉
Naxos
・演奏会用ユモレスク(パデレフスキ)
　　Pf 横山幸雄
・４つの練習曲,幻想曲(シマノフスキ)
　　Pf ヨハンナ･ドマンスカ
　　録音 2020年2月
・24の前奏曲(ショパン)
　　Pf ニキタ･マガロフ
　　録音 1991年4/15～16、江戸川文化センター
・夜想曲(ショパン)
　　Pf フランソワ･フレデリック･ギイ
　　録音 2021年3月
　　Pf マレク･シュレゼル
　　録音 2020年6月~21年12月
　

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