【ハスモン家またはマカベア家の反乱】
ユダヤ教を滅ぼそうというアンティオコスの企みは残虐さを増す一方であった。王の軍隊が村を取り囲んで一軒ずつ家探しをした。割礼を受けている男児が見つかるとその子は殺され，母親は見せしめのために首に縄を巻かれ，高い壁につるされた(2マカベア6:10参照)。また別の場合には，豚肉を食べるのを拒否したため，母親の目前で7人の息子が恐ろしい方法で次々に殺された。母親は子供たちに信仰を守り抜くように勧め，自分も毅然として最後に死んでいった(2マカベア7参照)。
残虐と恐怖は逆の効果をもたらした。反感が増し，アンティオコスとギリシャ軍兵士に対する憎しみが野火のように広がって，不服従の気持ちが民の心にくすぶった。そしてついに，暴動の口火が切られた。
紀元前167年,モデインという小さな村でギリシャ軍が村人を集め，ハスモン家の老齢の祭司マッタティアに異教の神に犠牲をささげることを命じた。マッタティアは身の危険も顧みずにそれを拒んだ。すると別の祭司が進み出て兵士の命令を実行しようとした。この弱い祭司がナイフを振り上げたとき，激怒したマッタティアは刀をつかみ，祭司とスリア人役人の両方を切り殺した。マッタティアと5人の息子は山へ逃げ込み,ユダの全員に参加を呼びかけた(1マカベア2:1-27参照)。反乱が始まった。それは各地に蜂起を促し，ユダヤ人は忌まわしいギリシャ人に反旗を翻して，暴動は全土を揺るがした。アンティオコスが反乱を本気で受け止めたときには，国中に自由を求める空気がみなぎっていた。
マッタティアはモーセの律法を擁護する祭司であったため，パリサイ派はハスモン家を支持した。マッタティア自身は反乱の開始後，間もなく死んだが，彼には5人の息子がいた。父が死ぬとユダが跡を継いだ。ユダは天才的な軍人で，まともな武器を持たない多数の民衆に，神と自分たちの大義を信じるように繰り返し呼びかけた。彼は味方の人数の2倍から4倍の敵を何度も打ち破っている(フラウィウス・ヨセフス『ユダヤ古代誌』X�彊�vii-(3)参照〔山本書店刊〕)。紀元前164年にはエルサレムの町が奪還され,神殿から汚れたものが取り払われてエホバ礼拝のために再び奉献された。ユダヤ人は400年以上たって初めて外国人の君主から独立した。
ハスモン戦争は，マカベアの乱という呼び名の方で知られている。マッタティアの息子がユダ・マッカビー(ギリシャ語読みではマッカバイオス)と呼ばれたからである。「マッカビー」という語が「槌」を意味するアラム語から来ており，華々しい戦功を上げたところからユダにその呼び名が与えられたと，おおかたの学者は考えている。ところがある学者が，『モルモン書』と共通する興味深い説を紹介している。
ハンフリー・プリドーによれば,ユダは彼の志に従う人々を一つの旗の下に集めた。彼はその旗に，聖典から取った言葉(出エジプト15:11)を短縮して書きつけた。「Mi Camo-caBaelisJehovah,つまり主よ，神々のうち，だれがあなたに比べられようか......この文章の頭文字をつないで，それがMaccabiという造語になり，それでこの旗の下で戦うすべての人がマカベア人と呼ばれた。」(『ユダヤ・近隣諸国史との関係から見た旧新約聖書』第2部，第3巻,pp.260-261)
ユダはユダヤの独立を求めて戦い続け，セレウコス軍にも度重なる勝利を収めた。紀元前161年にはローマと同盟を交わした。ユダの戦死で独立への歩みは遅れたが，兄弟のヨナタンとシモンが彼の仕事を引き継ぎ，セレウコス王朝の政治力減少に乗じて自分たちの勢力を強化しユダの境界線を拡張した。
しかしマッタティアと息子たちのせっかくの勝利も短命であった。民やハスモン家の子孫は，自分たちを解放したのが主であることを瞬く間に忘れてしまった。サウルやダビデ，ソロモンのように，新しい王たちは王宮の権勢の威力と栄光に負けて堕落した。マカベアー族の息子や孫は月並みな政治に堕して,100年も過ぎないうちに腐敗は進み，紀元前63年にポンペイウスがユダを併合して，イスラエルの地は熟した果実のようにローマ人の手に落ちた。
パリサイ人はハスモン家を支持して国の独立に貢献したので，絶大な人気を得たばかりか国家権力の中枢にまで接近していた。古くから有利な立場にいたサドカイ人は，ギリシャ人に最も気に入られていたため民の人気を失った。しかしイエスの時代にはパリサイ人が庶民になお支持される一方で，サドカイ派も力を盛り返し，サンヒドリン(ユダヤの宗教議会)や大祭司の職を支配していた。
シューラーはこの変化の原因をこう説明している。「ヒルカノス(ハスモン王，マッタティアの孫)とパリサイ派の仲たがいの明白な原因については，ヨセフスも記録を残しているが，同様にタルムードにも次のような内容のことが書かれている。あるときヒルカノスは，大勢のパリサイ人が同席した晩餐会で，もし自分が律法と違うことをしたのに気づいたら，注意して，正しい方法を教えてほしいと言った。ところがその場の人々は王を褒めちぎるばかりだった。ただ一人エレアザルが立ち上がってこう言った。『王は真理を知りたいと望んでおいでですので，もし心底正義を求めておいででしたら，大祭司の職を辞して国の政治にご専念ください。」そこでヒルカノスがその理由を知りたいと望むと，エレアザルはこう答えた。『わたしどもは古老から，王の母君はアンティオコス・エピファネスの統治時代に捕虜となられたと聞いております。』(ヒルカノスはアンティオコスの私生児だという非難である。)だがこれは間違っていた。ヒルカノスは猛烈に怒った。そこでエレアザルにどんな罰を与えようかとパリサイ人に聞くと,彼らは『縄をかけて鞭打ちを』と答えた。そのような侮辱には死刑以外にないと思っていたヒルカノスはますます激怒し，エレアザルは仲間の気持ちを代弁しただけなのだろうと考えた。王はただちにパリサイ人と断交し，罰則をもって彼らが定めた律法を守ることを禁止し，サドカイ人に近づいたのである。」(『ユダヤの民』p.77)
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