旧約聖書後半 特講(I-2)

【ハルマゲドンという名称の重要性】
現在のイスラエルのガリラヤの南部,エルサレムから100 キロほど北に，広くまた豊かな平野がある。現在ではここはイスラエルの国家の中でも最も豊かな農業地帯の一つであり，しばしばイスラエルの食卓と呼ばれることもある。この平野は，北は海岸側のハイファ湾から南東はヨルダン川にまで広がる地域である。エスドラエロンの谷(このギリシャ名が現在でもまだ使われている)は，いちばん幅のある所で24キロほどあり，北のナザレの山系と南のカルメル山，ギルボア山，そしてサマリア丘陵との間に挟まれた所に位置している。
古代で最も重要な街道の一つがこの谷を通っていた。ウィア・マリス，すなわち「海の道」はエジプトの海岸に始まり，現在のハイファとカルメル山のすぐ南で内陸部に向かって折れ，山々を走る重要な峠を越え，やがてエスドラエロンの平野へ下っていたのである。この道は戦略的にきわめて重要であり，この谷の入り口には要塞都市が築かれた。この都市がメギド，すなわちヘブライ語で「軍隊の地」という意味の町である(『一般聖書百科・聖句辞典』サミュエル・ファローズ編「メギド」の項参照)。この町は，丘のすぐそばにあったため，ハル・メギドすなわち「メギドの山」という名称でも知られていた。『新約聖書』ではこの言葉は「ハルマゲドン」に変わっている(黙示16:16参照)。 ごく昔の時代から，ハルマゲドンの谷すなわちエスドラエロンの平野では何度も大きな戦闘が行われてきた。ここはエジプトの歩兵が行進し，アッスリヤの軍隊が雄叫びを上げ，ネブカデネザルのバビロニヤ軍の通過した場所である。またユダヤ人ゲリラがローマの軍団と戦い，十字軍とイスラム教徒が凄惨な戦いをし，イスラエル軍がアラブの軍勢に向かって進軍した場所でもある。メギド，言い換えれば「軍隊の地」。この狭小な地域を表すのに，これ以上適切な名称はないであろう。
さらにまた，救い主が降臨される前の最後の世界大戦が行われる場所の名称として，これ以上に適切なものは見つけ難い。ハルマゲドンの名称を使ったのはヨハネであった。こう言っている。「三つの霊は，へブル語でハルマゲドンという所に，王たちを召集した。」(黙示16:16)聖句でこのような使われ方をされて以来，この名称は大戦争全体を指す言葉として使われるようになっている。しかし，「ハルマゲドンの戦い」という表現が聖典のどこかにあるわけではない。中には誤って，最後の大戦争の舞台がここだという結論を下す人もいるが，ブルース・R・マッコンキー長老が指摘しているように，最後の戦いはエルサレムを中心にその周辺で行われ，それがメギドにまで及ぶ可能性があるということなのである。
「エルサレムの北100キロほどの所に古代の町メギド(現在のテル・エル・ムテセリム)がある。この北部中央パレスチナのメギドから一望の下に見渡せるエスドラエロンの平原はかつて数多くの大戦争が繰り広げられた所である。メギドはハルマゲドンの古名で，ハルマゲドンとはメギドの山または丘，あるいは戦いの丘という意味である。ゼカリヤ書では『メギドの平野』と記されている(ゼカリヤ12:1)。
主の再臨の日，あらゆる国民が，『エルサレムに攻めて来る。』(ゼカリヤ11;12;13;14)そしてハルマゲドン(明らかにエルサレムからメギドに至る全領域，あるいはそれ以上の領域)の戦いが起こる。ヨハネはこう記している。『全世界の王たち〔が〕全能なる神の大いなる日に，戦いをするため......へブル語でハルマゲドンという所に』集められる。それからキリストは『盗人のように』，つまり予期せぬときにやって来るのである。そして主の帰還に伴って起こるとあらかじめ告げられていた大変動が起こる(黙示16:14-21)。神の大宴会が行われるのは，このハルマゲドンの戦いのときである(黙示19:11-18)。これはエゼキエルが記したゴグとマゴグの戦いと同じ戦いである(エゼキエル38;39;『救いの教義』3:41-42)。」(『モルモンの教義』p.74) ジョセフ・フィールデング・スミス大管長は，この大戦争はキリストが栄光のうちに降臨される前に起こる最後の出来事のうちの一つであるとして，次のように解説している。
「これらの預言者がはっきり告げていることの一つは，キリストの再臨に先立つ大戦争はエルサレム攻略をもって終わりを告げる，ということである。......
軍隊がパレスチナに集まった時が，主が降臨して裁かれる時であり，その下す重大な決定により主の民の敵は混乱する。そして主の民は永遠に古代の地に定着することになる。」(『救いの教義』3:43)
明らかに，これは世界にとって重大な意味を持つ出来事である。主がこれまで詳細にわたって教えてこられたのは，それに耳を傾ける人々が備えをなし，世界の歴史上最大の戦争が始まるときに慰めを得ることができるようにするためなのである。