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2021年10月23日22:15

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Happier Than Ever/Billie Eilish

 ケンドリック・ラマ―の新譜と並び、おそらく全世界がもっとも待望する新作のひとつ、ビリー・アイリッシュの『ハピアー・ザン・エヴァ―』。しかし良い意味でまったく変わっていないことに安堵したファンは少なくないだろう。

 普通、あれだけ評価された新人アーティストの次の一手ともなると、大物プロデューサーを大量にあてがったり、著名シンガー/ラッパーの客演でクレジットが埋め尽くされたり、とにかくビルドアップする方向で強化されるのが常。ところがビリーは相変わらずフィニアスと二人きりでベッドルームに閉じこもり、一切の外部の介在を許さずに本作を作り上げた。1曲目、シンプルな鍵盤のコードとボーカルだけの“ゲッティング・オールダー”でスタートしてしまうことに並々ならぬ自信が伺える(しかもめっちゃ名曲)。

 前作『ホエン・ウィー・オール・フォール・アスリープ、ホエア・ドゥー・ウィー・ゴー?』にて、自閉症のように暗く覆っていた重低音も消え去り、その晴れ渡った平野で鳴っていたのはビリーのパーソナルな「憂鬱」だった。“ロスト・コーズ”のようにファンキーなヒップホップ・トラックも収録されているが、どれも簡素なビートが上品に配置されているのみ。

 最近、フィオナ・アップルばかり聴いていた自分の耳からしたら(笑)、「さすがに少しはアトラクション欲しくない?」と要らぬ老婆心を抱いてしまうくらい、本作はシンプル。ビリーのボーカルと詩作に焦点を絞りつつ、それを美しいメロディーで再現することに特化したミニマルなバラッド・アルバムだ。ボディシェイピングに対する私見を表明した“ノット・マイ・レスポンシビリティ”周辺は、純音楽という意味では若干中だるみが生じるかもしれないけれど。でも“ユア・パワー”の倍音を強調したボーカルの処理、その美しさは溜め息しか出ない。

 察するに、ビリー・アイリッシュを未だハイプだと決めつける決して少なくない一般層に対して、真価を見せつけたいという個人的な思いもあるのかもしれない。
 だからこそと言うべきか、いつも通りアンニュイな前半部から一転してノイジーにひしゃげたギターが炸裂するタイトル・トラック“ハピアー・ザン・エヴァ―”の感動は捨てがたい。ベタっちゃベタなんだけど、内省的なアルバムの中でこれだけ突然エモい感じになるのだから、余計に心揺さぶられる。僕はこの曲を聴きながら、ぐしゃぐしゃに泣きじゃくりながら合唱する世界中の若いリスナーたちの姿と、まだ見ぬライヴのハイライトを想像して、そしてまた泣いてしまう。
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