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2021年01月03日00:24

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「ロマネスクとは何か」

「ロマネスクとは何か」 酒井健:著 ちくま新書

中世ヨーロッパは好きですし、ロマネスク美術にも興味はあります。しかし今までロマネスクに関する本をちゃんと読んだことがありませんでした。本屋さんで通りすがりにこの新刊書が目に留まってしまい、新書なら読みやすいかも…と思って衝動買いしました。

「ロマネスク」とは、19世紀に命名された言葉でその通り「ローマ風」という意味です。中世美術が何でまた「ローマ風」なのか。素朴な石造りの教会に素朴な表現の聖書や聖人の物語、奇妙な怪物の彫刻は、全然ローマと似ても似つかないじゃないですか。
ローマと言えば土木建築に優れ、幾何学的に整った形状の豪壮な建物を建てました。しかしローマも末期になると爛熟期を迎えて逸脱した表現が現れてきたということです。端正な連続アーチは柱頭が加えられ、その上にアーチを載せ、柱頭に装飾が加えられます。そのことによって建築の堅固さ・安定性は劣化しますが、装飾性が増します。
また、葡萄はローマでは酒神バッカスの象徴でした。そもそも地中海世界では葡萄は主要な農産物で、主にワイン作りに使われます。
聖書にも葡萄とワインが登場します。
ローマの神々の信仰がキリスト教に置き換えられる過程で、バッカスを象徴していた葡萄のモチーフがキリスト教会の装飾に転用されました。葡萄の蔓を模した装飾、そして葡萄の木のようにねじれた柱に変化していきます。ねじり柱はロマネスクの教会によく見られます。

「ロマネスク」つまり「ローマ風」とは、あくまでも「風」なのです。ロマネスク美術は本当にローマ「風」の美術だった…という意味を初めて知りました。

また、ローマの演劇はギリシア演劇を引き継いで仮面が用いられていました。特に喜劇の仮面はデフォルメのきいたオーバーな表情をしていました。その仮面の表現もまたロマネスク彫刻の怪物の表現に応用されたということです。誇張された表現で悪魔や地獄の恐ろしさを伝えようとしたのです。

私が中世ヨーロッパに興味を持ったころ、「中世=暗黒時代」という図式から脱却しようとする試みが盛んに行われていました。しかしローマの建築や彫刻を見ますと、どうしても中世美術は端正さにも写実性にも欠け、技術が劣化したように見えます。
しかしローマ時代と中世は直接連続している世界だととらえること自体が間違っていたのです。
ローマ時代は地中海を中心とする地中海世界でした。北アフリカもローマの領域でした。しかしローマが滅びると、ヨーロッパの歴史はアルプス以北の世界に移ります。つまりゲルマン人やケルト人の世界です。ロマネスクとは、ローマ末期の爛熟化した様式を取り入れながら、アルプス以北のヨーロッパ人のローカル化が進んで出来上がったものなのです。ローマでキリスト教が認められたころ、ローマの神々の信仰とのせめぎあいがありました。キリスト教が国教化されると、ローマの神々は異端とされて神殿が壊されました。アルプス以北の世界でもゲルマン人やケルト人の土着の信仰がありました。中世になると、その土着の信仰とのせめぎあいになります。

私見ですが、厳然とそびえていたローマの神殿と違って、ゲルマン人の信仰は日常生活にかかわる素朴なものであり、「神殿を壊す」という目に見える形よりも壊すのは難しかったのではないか…。実際ゲルマン人に対してキリスト教の布教が行われていた時、土着の信仰と折り合いをつけながら読み替えをしていたとも言います。そういった読み替えに基づいたものが、キリスト教のゲルマンローカル化だったのではないでしょうか。

また、この本では黒い聖母像の信仰が取り上げられています。黒い聖母像はフランスのそれも南部に多くあります。なぜ黒いのか…それはまず考えられるのは、大地に対する信仰、地母神信仰があると言われますが、ローマの女神とつながりがあるということです。そしてそれはさらに地中海の向こう、エジプトのイシス神にも通じるということです。

さらに、ロマネスクの時代の人たちがローマをどう見ていたか、ということも書かれています。古代ローマはすでに廃墟になっており、そこを訪ねたロマネスク時代の司教が失われたローマをテーマにした詩を書いています。失われた古代ローマに対する郷愁はあったのですね。
そのほか、この時代の人々が書いたものがいろいろ引用されていて、当時の人々のものの見方や考え方がわかります。

「ローマ風」から発して独自の「ロマネスク」という様式がいかに発展していったかということがよくわかりました。
そして私はやっぱり幾何学的に整った本来のローマよりも、ねじり柱や怪物や怪しげな(?)聖遺物に彩られたロマネスクが好きです。

ついでに、スペインへ行ったとき、バルセロナの自由時間でカタルーニャ博物館へ行きました。中世美術が充実しているということだからです。本当に充実していて、カタルーニャローカルのロマネスク美術がざっくざくで、ウットリしていました。「もうルネサンスなんか来なくていいよ」と思ったほどです。
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