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2020年04月23日18:13

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引佐細江のみをつくし

私が常々使っている細江町図書館も浜松市立の全館と同じく、4/22(水)から5/6(水)迄臨時休館に入った。とは言ってもこれは暫定的な予定で、果たして5/7(木)から開ける事になるのかどうかは分からない。

今日はコロナ禍の話ではない。
細江町図書館のすぐ隣に文学広場があり、細江町にまつわる詩歌,俳句等の碑が集められている。
これはその中の1つ。
うしろにはツヅジが咲き始めている。

　　逢ふことは
　　引佐細江(いなさほそえ)のみをつくし
　　深きしるしも
　　なき世なりけり

『千載和歌集』(1188/編纂完)の「巻第十四恋歌四」に含まれる歌である。
平安時代末期の歌人藤原清輔朝臣(1104-1177)の詠んだものだと思われるが、「詠み人知らず」としている資料もある。
『千載和歌集』は後白河院が藤原俊成に命じて編纂させた勅撰和歌集だ。

細江は万葉集に歌われた例もあり、大変に歴史のある町である。
万葉集巻十四譬喩歌には以下がある。

　　遠江(とほつあふみ)
　　引佐細江のみをつくし
　　我(あ)れを頼めて
　　あさましものを

こちらは、細江の町と浜名湖を見下ろす細江公園、その文学の丘に石碑が建てられている。

藤原清輔の歌は、この万葉歌を本歌取りしたしたものだと考えられている。

【通釈】
逢うことはできないというあの人、引佐細江の澪標(みをつくし)ではないが、いくら身を尽くしても、深い徴は得られない縁だ。

【語釈】
出だしの「逢ふ」は「遠江(とほつあふみ)」の「あふ」と掛けられている。
「引佐(いなさ)」は「否(いな)」、否定の意も含み持つ。
「細江」の「細」は、あとに出てくる「深き」と対比感を生み、コントラストとなっている。
「澪標(みをつくし)」は、船が通れない浅瀬を注意する航路標識。且つ「身を尽くす」を掛ける。
つまり、逢う事もできない浅く細々とした恋、身を尽くしても深い関係にはなれない、とつながる。

下の写真のように、澪標は今も、奥浜名湖、都田川が流れ込むその先に立っている。大阪の難波江にもあって歌に詠まれた。

それがのちデザイン化されて細江町の町章ともなった。

私の住む場所は浜松市北区細江町だが、以前は引佐郡細江町と呼ばれた。

「いなさ」は、古くは南東の強風を指した。関東,東日本では台風の前兆となる事が多く、大時化(しけ)となる場合も。
辰巳風とも呼ばれた。
夏の季語としても使われる。

(島根県には稲佐の浜、奈良県には伊那佐山という地名がある。ひらがなの「いなさ」と漢字の「引佐」がイコールかどうかは分からない。念のため。)
　

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