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2019年08月31日21:59

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有原兄妹の義兄『義兄と兄、出会う エピローグ』

「この馬鹿者が〜!」

 電話口で罵倒される。

「少々予定外のことがあったんだからそう、怒ることは無いだろう!」

 なおも言い訳する少年に電話の向こうの老人はなおも怒り続けている。

「わかったわかった、今度は無茶をしないと約束する、だからそんなに怒らないでくれ博士」

 少し困ったように謝る少年にやっと少しだけ溜飲が下がったのか、隣にいる麻理沙には怒声が聞こえなくなったようだ。

「ったく、我だってスーツを完全に壊すつもりなんてなかったというのに…」

 電話を切った卿哉がブツブツと愚痴を零す。 

「またお説教ですか?お兄様は本当に怒られるのが大好きなんですね〜、麻理沙には理解できない趣味ですね」

「誰がそんな趣味など持つか!」

 そう言うと乱暴に椅子に座り込む。 ギシリと椅子は揺れたが、それでも優しく彼の体重を受け止めてふんわりとした座り心地を提供する。

「まったくやっと宗兄様から出社許可が降りたのですから、あまり面倒なことはなさらないでくださいね」

 ここは卿哉達が取締役を勤める会社。 その上階に作られた部屋には三人しかいない。

 いまだ出社時間には早いその部屋では不機嫌そうな卿哉と涼しい顔で紅茶を飲む麻理沙とメイドのシャンティだけがいた。

「そもそもなんで俺が部下に出社許可を得なければならんのだ!」

 なおもプリプリと怒る卿哉に麻里沙が紅茶を一口啜りながら、

「それでは宗兄様に文句を言ってくださいな」

「な、なにも宗兄に対して不満があると言っているわけでは…」

 兄の名前を出されて途端にしどろもどろになる卿哉の反応を嬉しそうに堪能しながら麻理沙は瞳を細める。

「まっ、いずれにしてもこれからは大人しくしてくださいね、先刻のイベントが成功裏に終わって涼子さんも機嫌がよろしいんですから」

「むっ、あのイベントか…ま、まあ…成功したことは…良いことではあるのだが…う〜ん…まあ…」

 モゴモゴとしながらも納得いかない様子の卿哉を妹は横目でチラリと見る。

 大方、またろくでもないことをしようとして失敗したようですね。 まあ麻理沙には何も関係ありませんけど。

 冷ややかな反応をされていることに気づいて気まずいのか?_ ふと卿哉が立ち上がった。

「ファントムスーツの改良案を思いついた!麻理沙、兄は出かけてくるので宗兄によろしく言っておいてくれ」

 そのまま逃げ去るように部屋を出て行く兄を見送りながら、麻里差はもう一口紅茶を啜るのだった。

「麻理沙様、そういえばあのイベントには結局透火様はいらっしゃらなかったようですね」

「ええ、そうらしいですね。報告書によると色々とトラブルがあったので行けなくてすいませんと謝罪のメールが来たらしいとか?」

「…あの、メールまで監視してるんですか?」

「ええ、いけませんか?」

「い、いえ…なんでもありません」

 私も用事を思い出しといって部屋から出てみようかしら? いえ、そんな命知らずなことは止めておきましょう。

 なおも無言で紅茶を飲む麻理沙から視線を外しながら、

 ああ早く宗雄様か熊原様のどちらかが出社してきてくれないかしら。

 無表情のまま、シャンテイはただただそれを願うだけだった。


 
「それで?来る予定だった友達とは連絡を取ってるの?」

「ええ、…なんでも良かったことと悪かったことが同時にあったってメールでは言ってましたね」

 出勤途上で偶然であった涼子と宗雄が歩きながら話をしている。

「でも弟妹のことで相変わらず忙しいみたいですよ」

「どこの弟妹も大変ね。それでうちの弟妹達も今日から出社だったっけ?」

「え、ええ…また迷惑をかけると思いますがよろしくお願いします」

「別にいいわよ。もういい加減慣れ…いいえ諦めたからね」

「ど、どうもすいません」
 
 困り果てたようにペコリと頭を下げる宗雄を見る涼子の瞳は優しい。

「大丈夫よ、先月は私も疲れていたとはいえ言い過ぎてたからね…それにしても…」

「えっなんですか?」

 問い返す宗雄に涼子は、ふっと笑いながら

「お兄ちゃんは本当に大変よね」

 と悪戯っぽい瞳で言った。
  


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