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2019年08月27日17:37

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杉本完治先生のお孫さんの話

賀茂真淵記念館の森鷗外講座は、2015年から始まり、今年も続いている。
今年の3回の講座を全部聴いたとすると、17回を数える事になる。
各回の間で重複もなくはないが、毎回毎回興味深く、面白く聴かせてもらってきた。
これも、講師の鷗外に対する情熱と、あくまで実証主義、全ての関連事項に歩いて当たってきた、恐らく半世紀に亘るであろう蓄積によるところ、それ以外にあり得ない。

これ迄、随分たくさんの受講記録をしたためてきたから、お読みの方々はご存知だと思うが、その講師が杉本完治氏である。

今回、8/25((日))の中日新聞朝刊に、氏とお孫さんの記事が写真入りで大きく採り挙げられた。

フォト


お孫さんが、鷗外最初期の小説『舞姫』を英訳し、電子出版した由。
17歳、高校3年生だとの事だが、4年半の時間をかけてこれをやり遂げたとの事である。
原文は擬古文であるから、現代の我々には読むだけでも困難がつきまとう。
記事にも触れられているが、原文の現代語への翻訳は杉本が助け舟を出したようだ。

冒頭の有名な1文、「石炭をば早や積み果てつ。」だけでも、主語が省略される等、英訳には様々な壁があったようだ。
無論、現代では石炭を燃やして航行する船舶等ない。ただ字の表面を追うだけでは、翻訳はできない。時代背景の理解も必須だ。

→現代語訳;
(この船は)石炭を積み終わった。

→英訳;
Coals had already been finished in this ship.

記事からもう少し例をピックアップすると、

原文;
年は十六七なるべし。被りし巾を洩れたる髪の色は、薄きこがね色にて、着たる衣は垢つき汚れたりとも見えず。

→現代語訳;
(彼女の)年は16、7歳であったろう。被った巾を洩れている髪の色は、薄い金色で、着ている服は汚れているようにも見えなかった。

→英訳;
She will sixteen or seventeen years old. She has light blond hair hanging out the cloth pulled over her head. and the clothes her wearing didn’t look dirty.

・・・

原文;
面色さながら土の如く、「我豊太郎ぬし、かくまでに我をば欺き玉ひしか」と叫び、その場に僵れぬ。

→現代語訳;
彼女の顔色は土色だった。「私の豊太郎さんは、ここまで私をだましたのですか」と叫び、その場に倒れた。

→英訳;
Her face was pale. “Has Toyotaro deceived me so far?” She shouted and then coolapsed.

タイトルは、『 The Dancing Girl 』としたそうだ。

写真の杉本完治氏の顔は内心を隠しているが、悦びが滲み出ているように見える。
自分のライフワークを、それイコールではないにせよ、歳の遥かに離れた孫が引き取ってくれた事、これに勝る喜悦もあるまい。
 

記事の電子版も一応リンクを貼っておくが、こちらは遠からず見る事ができなくなってしまうだろう。
https://www.chunichi.co.jp/article/shizuoka/tokai-news/CK2019082502000092.html
 
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