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2019年01月29日08:53

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読書日記Nо.1152(小説より猫のことをずっと考えている)

■保坂和志「ハレルヤ」2018年7月新潮社刊

保坂和志さんの小説を読むようになったのは、この読書日記で2012年8月に
とりあげた「カフカ式練習帳」からだった。

新聞書評の各紙で絶賛されていたので、どれどれと思って手に取ったら、
ジャンルでいえば、純文学だろうが、並の純文学とは違って、言葉にならない
深いところにたどり着こうという、独特の文体に痺れた。

それ以降、刊行されたものすべてではないが、目に触れれば手に取るように
していて、どれもハズレがない。

本作品集は、いずれも飼い猫にまつわる3編の短編、プラス1編が所収されて
そのプラス1編が、川端康成文学賞を受賞。その贈呈式で、保坂さんは次の
ように言ったという。

「小説は二の次。小説より猫のことをずっと考えている。」

本書の惹句を紹介しましょう。

“片目の猫、花ちゃんが、18年と8ヵ月かけて教えてくれたこと。”
世界があれば、生きていた命は死んでも生きつづける――。”

“キャウ! 一九九九年に作家夫婦の家にやってきた片目の猫、花ちゃんは、
十八年八ケ月を生きて、旅立った。死は悲しみだけの出来事ではないと、
花ちゃんは教えた(「ハレルヤ」)。死んだ友だちの葬儀で、彼と過ごした時間の
歓びに満たされる川端賞受賞作「こことよそ」を併録。心揺さぶる四つの短編”

保坂は次のように言う。

“言葉や論理のおかげで人間は進歩してきたと思われているが、それらは
人間を縛り付ける。言葉は人間を不自由にさせるものだと思っている。この思い
に至ったのは、猫と30年を過ごしてきたから。”

“猫はこちらの言うことなんて聞かない。年寄猫はなおさらだ。猫がままならない
ように、現実だって、ままならない。短編「ハレルヤ」は自然とこうなった。僕は
猫のお筆先で書いている。人間が主体的に何かをするのは好きじゃない。
しょうがなくやっちゃったことの方がいい。”

“猫と一緒にいることで、「考えに輪郭が与えられた」という。「みんな、考えを
テンプレートで借りてくるでしょ」。自分なりの輪郭をつかむために、感動したこと、
心が動いたことをシンプルに書く。”

“人々を不自由さから解放することを考えている。小説はテーマやメッセージで
それをやるけど、そのときの小説のスタイルはカチカチ。口では自由だと言いながら
自由じゃない。だから小説を書くやり方全体を自由にしなきゃ。”

その主張を、保坂はこの4つの作品で実践している。

文体は前衛的でありながら、読むと心が深い感動に包まれるのはなぜだろう。

シンプルに、ストレートに、融通無碍に書かれていることに深く心動かされる。
「小説は読んでいる行為の中にしかない」とは、保坂のかねてからの主張だが。

それでは、2012年8月に、保坂の小説に初めて出会ったときの読書日記も
最後に紹介しておきます。

https://mixi.jp/view_diary.pl?id=1862259923&owner_id=5540901
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