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2018年05月27日09:29

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小説『戦わない国』⑵

『戦わない国』⑴
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『戦わない国』⑵


【夢】謀反計画

 気づくと、竜車から見える景色が変わっていた。そこは、木造の建物が並ぶ軍の駐屯地になっていて、多くの兵隊が行き交っている。その中には少数の女性の姿も見られるが、多くは酒場などに雇われた女である。
「いつの間に、」アキラは呟く。
「ご存知ありませんでしたか。二年ほど前にこの街は建てられました。」
「我が国の人々は平和に安住してしまっていたという事だな。本当は、世界中の人々がそんな風に暮らせれば良いんだが。」
「そうあって欲しいものです。」
 竜車が角を曲がった時の揺れでヤブレオが目を覚まし、街の景色を見て驚いた。
「おお、着いたか。俺たち、牢屋に入れられたりしないよなあ。ちょっと緊張してきた。」
「我々も戦の回避を願っています。」とヤマノコ。
 皆、少々不安顔である。
 竜車が停まり、ヤマノコが車外に出て、皆もそれに続いて出た後、横一列に並んで、迎えに出た男に敬礼をした。
「大隊長殿!第一小隊長ヤマノコ他六名参りました。」
 大隊長が待ち兼ねて表に出ていたのだ。
「皆、ご苦労。師団長がお待ちかねだ。では中へ。」
「はっ!」
 そして皆は師団の建物に入り、廊下を何度か曲がった奥の部屋へと案内された。
「ようこそいらっしゃいました。私が師団長のソラノコ(空児)です。カワノオ大隊長やヤマノコ小隊長とは同じ村の出身で幼馴染なので、今回の事は話が早かった。……ではどうぞ、お掛けください。」
 四人は師団長や大隊長と握手をして、ソファーに腰掛けた。
「アキラ殿、国王陛下は変わられた。誰も公に口にする事は無いが、知的でおおらかな部分が欠落し、代わりに、感情的で惨忍な部分が突出してしまっておられる。皆、そう感じている筈で、あの呪術士なる者がおかしいというのも分かっている筈なのだ。この島の王国に侵攻する事など誰も望んでいない。陛下もそうでいらっしゃった。裏切り者の汚名を着せられてでも、誰かが国王陛下をお救いいたさねばならない。貴方たちは我らに味方していただけるか?」
「そのつもりです。私たちも戦にならないために最善を尽くします。」
「有難い。アキラ殿と部下の方々には色々とご尽力頂きますが、なにとぞ宜しくお願い致します。詳しい作戦については、カワノオ氏とヤマノコ氏とお話しいただきたい。」
 皆は握手を交わして部屋を出た後、カワノオとヤマノコの二人と具体的な計画を立てた。四人が国王に接近する為に、至急、隊の再編成を行い、アキラとヤブレオを親衛隊員に、そしてアマヒキとサユメを侍女として配置する事にした。大隊長が当日の流れを説明する。
「三日後に国王陛下が本隊侵攻の決起演説をなさる。その演説直前に、親衛隊が陛下と呪術士を別々に拘束。そして集まった兵の前で、師団長が拘束の理由を説明する。想定を大きく逸れる事がなければ、事態はその日の内に収まり、陛下は徐々に元の知的な方にお戻りになるでしょう。」
「では、国王にはサユメとヤブレオが。呪術士には私とこのアマヒキが当たりましょう。経験豊富な呪術士に手こずってしまうかもしれませんが、必ず捕らえてみせます。」
 アキラは自信に満ちていた。
 そして、アマヒキとサユメは、早速本部で侍女としての教育が始められ、アキラとヤブレオは親衛隊へと入隊した。


【夢】決起の要塞

 決起の日、島に駐留するタイコウ国軍の殆どの兵士が、小高い丘を改造した要塞の前に結集した。雲一つない真っ青な空に、森林を排した丸坊主の丘が突き出ていて、その一部を植毛したように大群の兵士達が整列していた。
 要塞の天辺にある舞台に師団長の姿がある。彼は、眼下の兵士達に向かって、大声で叫んでいるが、大半の兵士の耳には届かない。それでも、前の方から歓声が上がれば、波のように伝わって拳と歓声が上がっていく。
《……真に諸君等の愛国心が問われる。国家の泰平と、国王陛下の健やかなる事を切に願い身を捧げよ、またその意志を素懐として生き延びよ!》
 師団長が言葉を締めくくると、再び全兵士から大歓声が上がった。彼が舞台を退くと、代わって国王が進み出る。
「ほう、兵士の心を鷲掴みにしておるではないか。次期国王の座は射止めたも同然よのう。」
 国王がほくそ笑む。
「まさか、そのような……私は、国王陛下のためなら、いつでも死ねる覚悟でございます。国王になろうなどとは少しも、」
「ならば死ね!今ここで死ぬが良い。さあ、」
 師団長は一度目を丸くしたが、直ぐに穏やかな表情になり、国王の前に跪いた。
「私の死が、国の為、そして陛下の為になるのならば喜んで死を選びましょう。では、陛下、お健やかに、」
「馬鹿、冗談だ。立て、そして早く袖に行け。皆が騒ついておるではないか。英雄に死なれては収拾がつかなくなる。ほれ、」
 国王は犬を追い払うような仕草をした。そこへ二人の兵士が歩み寄り、師団長を抱え上げようと見せかけ、二人同時に振り返って国王の両腕を掴んだ。国王はもがきながら叫んだ。
「何をする!貴様等何者だ、こんな事をしてただじゃ済まさんぞ、離さんか!」
 師団長が剣に手を掛け、素早く抜いて立ち上がった。
「お前達、死を覚悟してのことであろうな?」
「覚悟の上です。師団長、申し訳ありません、しかし、この戦は、始めてはなりません!」
 一人の兵士が小刀を抜いて国王の首に当てた。
「な!貴様、無礼な!」
 左袖の奥、メイド姿のアマヒキが掌を広げた。要塞の下の兵士達が狼狽え騒然としている。
「ああ、ああ、うん、うん、お前達の望みを聞こう。で、何が望みだ。ん?」
 右袖から進み出たのは、元帥・カザマキである。兵士は野良犬のような顔で叫んだ。
「国王陛下がおかしくなったのは、元はと言えばお前のせいだ。平和な国に兵を上げさせ侵攻させようなど、どういうつもりか知らんが、お前が死ね!陛下、このゲス野郎に死ねと言ってやって下さい。」
 国王は鼻先で小刀を振られて慌てている。
「待て、分かった。元帥、私の為に死んでくれ、頼む。な?」
 カザマキは不敵な笑みを浮かべながら、
「何を今更そんな事をおっしゃいますか。こんな端(はした)兵士の一人や二人に惑わされますな!」
 と言い放つや否や、両掌を兵士達に向けると、国王の首に当てていた小刀が落ち、二人の膝が折れて共に後ろへ倒れ込んだ。
「うをーーっ!」
 二人は国王の足元で頭を抱えて痛みにのたうち回っている。
「おお、さすがは元帥!おかしな事を言ってすまなかった。これでもう安心だな。」
 国王の言葉が終わるか終わらないかのうちに、カザマキは周りを見回しながらゆっくりと大声を上げる。
「いえいえ、油断はなりませぬぞ、まだ微かに謀反の匂いがしております。」
「そうなのか?誰が謀反を?」
 国王は舞台上にいる者達の顔を見回した。
「陛下……」
 師団長が言い掛けたが、その言葉を被せるように親衛隊のヤブレオが声を上げた。
「あーあ、バレてるのかい、このクソ野郎!意外にやるじゃねえか。俺も国王じゃなくて、お前に死んでもらう!」
 カザマキにヤブレオが襲いかかる。しかし元帥が片手で扇ぐような仕草をすると、ヤブレオは舞台上で紙人形のように吹き飛んで転がった。
「てーっ、畜生、テメー!」
 ヤブレオは再び立ち上がり、体当たりを試みる。カザマキはそれを再び片手で叩き倒す筈が、ヤブレオの肩に元帥の体は突き飛ばされた。倒れたカザマキは信じられないという表情で叫ぶ。
「何故だ!どうしたというのだ!ん?こ、小娘、呪術士だな?」
 舞台の奥で、アマヒキが両手を合わせ、カザマキの方へと向けていた。そこへアキラが進み出る。
「観念したらどうだ。もう勝ち目はないぞ!」
 アキラの体から青い炎が上がり、昇り龍となって高く燃え立っている。
「お前は、誰だ、ええい、来るな、来るな!」」
カザマキは倒れたまま怯えながら後退りをする。そして、飛び出すほどに開かれた目からは、突然、黒煙が噴き出した。
「ああーっ!」
 カザマキは痛みに震える声を上げるが、ついに目は黒い石になり、激しい哀しみの表情になった後、低い声で不敵に笑いながら、ゆっくりと立ち上がって呪文を唱え始めた。すると八方から翼竜が集まり、アキラ目がけて飛びかかった。アキラは跳ね飛ばしながらも、押し寄せる翼竜の大群に埋まって行く。アマヒキは呪術で一体ずつ剥がして行くのがやっとである。
「おお、流石は元帥、全ての翼竜を集めておる!」
 喜ぶ国王に対し、
「陛下、巻き込まれては危険です。ひとまずこちらへ。」
 とヤブレオが言って連れ去り、サユメは親衛隊と共に、倒れた兵士を保護して要塞の中へと入って行く。
 カザマキは翼竜に埋まったアキラを笑いながら、反対の扉へと逃げ去った。
「アマヒキ、離れていろ!」
 アキラの両足は太いカギ爪の指を突き出し地面を掴んだ。そして翼竜を弾き飛ばしながら両腕を宙に舞わせると、青龍は、空へと螺旋状に昇り、竜巻を起こした。翼竜の殆どがその竜巻に吸い込まれ、空へと飛ばされて行った。
 アキラとアマヒキは大隊長と一緒にカザマキを追う。急な階段を下り、土を掘り進めた狭い通路を行くと、三叉路に突き当たった。しかしカザマキの足音はどちらからも聞こえない。
「何かがおかしい。」
 アキラが呟くと、大隊長がそれに答えた
「これは変だ。こんな所に三叉路なんておかしい。ここは高架の通路になっているので、もし左右に進んだとしたら、要塞から落ちてしまう。アキラさん、真っ直ぐ進む道があるはずです。」
「やはりカザマキのまやかしですね。」
 アキラが右掌を正面の壁に当てた。するとそこには何も無く通路が続いていた。
「行こう。」
 暫く行くと、また三叉路に出くわした。目の前に金属で出来た頑丈そうな扉がある。
「ここは本物です。しかし、この金属の扉が閉まっていて開かないのはおかしい。この部屋は中からかんぬき(かんぬき)が掛けられます。ですから今開けられないのは誰かが入っているという事になります。 おそらく元帥でしょうが、ここはまだ工事中で、小さな明かり取りの窓以外、出口はありません。これじゃあ、いつかこじ開けられて捕まる、という事くらい元帥にも分かりそうなものですが。」
「なぜ奴はそんな所にこもったんだろう。」
「おかしい、カザマキの気配が無いわ。確かに人は居るみたいだけど。」
 アマヒキは大隊長を見た。
「本当に出口は無いんですか?」
「有りませんよ、ここは、陛下が一時立てこもる為に作られています。だから何重にも大きな石が組まれています。壁を簡単に壊したりなんか出来ませんし、この扉を使う以外、出る方法はありません。……息を止めてるんじゃないですか?又は寝てるとか、こんな時に寝ないか。」
「奴が眠る理由があるとすれば、俺たちのように現(うつつ)に戻る為?アマヒキ、眠ると気配は消えるのか?」
 アマヒキは思い当たるような顔をした。
「消えるわ。それも、夢と現を行き来する人だけ、気配が消える。だからアキラも、ヤブレオも……」
「え?ヤブレオも現からの人間なのか?」
「多分。彼、打ち明けられない理由が何かあるんでしょう?」
「そうか、まあいいが、それにしてもカザマキ……」
「もしかしたら、」
 アマヒキが眉を潜めた。
「夢では四人に勝てないから、現へ戻って一人ずつ抹殺するつもりなのかもしれない。」
「うっそだろう、俺、向こうでは喧嘩したこともないヤワな男だぞ。」
「ヤブレオも呼びましょう。彼が向こうで強い男だと良いけど。」
「あはは、なんだよ、俺のウワサでもちきりか?」
 丁度そこにヤブレオが現れた。
「おお、向こうはどうだ?」とアキラ。
「サユメは兵士二人を介抱した後、国王の催眠状態を解いてる。数日かかるって言ってた。それから師団長は今、兵士たちに経緯を説明してる。あの人なら多分大丈夫だろう。」
「そうか。俺たちはこれから現に行ったカザマキを追いかける。君も向こうから来てるらしいから、一緒に来てくれ。
「あ、アマヒキがバラしたな?で、カザマキの野郎も現の人間なのか?」
「ああ、おそらく向こうで攻撃してくる筈だ。じゃあ、詳しい話は後で。大隊長、どこか部屋を使えますか?」
 大隊長は指差して言う。
「隣が同じ作りです。そっちを使って下さい。」
「ありがとうございます。」
「では、お気をつけて。」
 アキラ達は隣りの部屋に入って鍵を掛け、簡単な打ち合わせをして眠りに就いた。


【現】父と息子と[前半]

 昭は目が覚めると、キャンプ用品の最終チェックをしようと車庫に出た。すると、息子のタケシが先に起きていて、配達用のワゴン車にキャンプ用品を積み終わるところだった。
「ありゃ、タケシ、今日は珍しく早いなあ。」
「あ、おはよう。」
 バーベキューコンロのダンボールを二人で一緒に持ち上げながら、
「おはよう。興奮して眠れなかったか?」
「逆。早く寝すぎた。いいよ、もう終わるから。父さんが腰悪くしたら、うち倒産するだろ。」
「お、今、なんと仰いました?上手いなあ、大学でそういうの教えてもらうのか?」
「んな訳ねーだろ。」
「おう。」
 ここまでで親子の会話は途切れたが、起き抜けにも関わらず、昭にしては、珍しく頑張った方である。
 それから朝食を食べ、昼食までの長い間、何もすることのない彼は、息子が生まれてから今までの事を出来るだけ順序よく思い出そうとしていた。というのも、近年、息子の方からレジャーに誘って来る事は無かったが今回の突然の誘い。それが何を意味するのか、また、何が切っ掛けになったのか。

 誕生後、夜泣きからイヤイヤ期を経て、小学校に上がると父親の前では良い子を装い、中学校に入れば、親とは単語でしか口を利かず、友人と連んで夜になるまで家に帰らない、いわゆる反抗期を過ごした後に、いつどこで勉強していたのか進学校に入学。そして大学へ。
 今まで自分は息子と心が殆ど接触していない事に昭は気付いた。
(それがなぜ今、猛から?過去の俺が息子だった頃はどうだった?博打好きの、息子に対する言葉を持たない父に対して、俺はどんなアプローチを仕掛けた?あるいは奴が死ぬのを待っていた?それともその静観こそが彼へのアプローチだったのか?)
 自分の出来の悪い脳みそでは答えなど出るはずもない事は薄々感づいていながら、幾人もの息子と、幾人もの自分と、そして唯一の父とを掛け合わせて、息子の真の姿と、父の新たな、しかし有り得ない姿を、自分の夢の世界に映し出そうとしていた。
……お父さん……
……お父さん……
……お父さん?

「あなた?アキラさん、どうしたの?具合がでも悪いの?」
「あ?ああ、俺の事か、いや、大丈夫。」
「ご飯の用意出来たけど、食べる?それとも上で休む?」
「ちょっと考えごとをしてた。さあ、食べるぞ。」

 少し早い昼食を済ませ、昭と猛の二人は車に乗り込んでキャンプ地へと向かった。出がけに妻が、「次は私も連れてって」と言ったが、昭は本当はついて来て欲しかった。キャンプ地までの、父と子だけの密室に拘束された空白の時間を、どうやってやり過ごそうかと、言わば、恐怖を感じていたからなのだ。
 ところが、意外にも、車内の空間を演出したのは息子の方だった。
「俺、ナビするね。先ず二号線との交差点を左に曲がって。そしたらとりあえずずっと真っ直ぐね。あ、ここのメシ屋旨いよ、何回か行った事ある。」
「ほう、今度母さんと来てみるか。どんな店?」
 息子主導で不思議と会話が成り立って行く。沈黙の時間も、安っぽいエンジンの、しかし軽やかなリズムで満たされ、そして更に時折、滑稽なウインカーの音が挟まれる。これまでの親子の間の緊張感が嘘のように消滅している。昭は、息子が新しい父親の姿を見出したのかもしれないと思った。とはいえ、自分は何も変わらず取り柄のない男とも感じていた。
 密室の恐怖の筈の時間が、心地よい時間となって過ぎ、あっという間に一時間半の距離を移動してキャンプ地に到着していた。

 受付で代金を払い、荷下ろし、テントの設営、そしてささやかな獲物に喜びを得るための釣り。二人は今までに無い、普通の親子の時間を過ごしていた。
「おお、飯盒か。お前炊き方知ってるのか?」
「知らないけど、ググれば出て来るでしょ、多分。」
 猛はスマホを探しているが、昭は掌を振りながら言う。
「ああ、ああ、そんな事しなくていい。〈はじめちょろちょろ、中ぱっぱ、赤子が泣いても蓋とるな〉だ。」
「聞いた事ある!父さんは炊いた事あるの?」
「子供の頃、二回くらいな。もう覚えてないけど。」
「イヤイヤイヤイヤ、覚えてないって、」
 猛はお手上げのポーズ。
「つまり、弱火で始めて、火を強くして、んで蓋を取らなきゃ良いんだよ。」
「うっそー!」
「嘘じゃないって、最後蓋取らないっていうのは、多分ひっくり返して蒸らすって事だろ。なんか思い出したぞ。」
 猛は信用ならないという表情をしているが、
「ま、一食くらいご飯無くても死なないから、ぶっつけ本番でやってみるか。」と半分諦めている。
「それがキャンプの醍醐味だろう。」
 昭が笑っている。猛も笑っている。



『戦わない国』⑶
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