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2018年04月20日20:59

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超短編小説(SS)『社長さんいらっしゃい!』

『社長さんいらっしゃい!』

〈そんなわけで今回は、オープニングセレモニーの最中ですが、当社の社長が未だ決まっておりません。式次第では、新社長による《社長挨拶》となっておりますので、どなたか、新社長になって社長挨拶をしていただける方、どうかマイクの前までお進み下さい。〉
 人事が間に合わなかったにしても、臨時の代役を立てるなどの事前準備もない会社のお粗末には、会場の新入社員の誰もが呆れかえり、騒つくばかりか、野次まで飛び交う始末。しかし、一向に社長に名乗りを挙げる者も居ず、時間ばかりが過ぎていく。痺れを切らした司会者が、マイクに向かって言った。
〈えー、皆様、今回、取締役常務、専務、社長、のポストの全てが昨日まで空いておりましたが、本日朝8時の時点で幾つかが既に埋まっているのでは?という情報が入ってきております。もしかすると三役全部埋まっていないかもしれませんし、社長以外、二つが埋まっているかもしれません。残念ながら組み合わせはお教え出来ません、チャンスは各役職につき一回、以下です。こっそりヒントらしき事を申し上げさせて頂くと、〉
 そこで司会者は、掌でマイクを隠すようにして口を近づける。すると、会場の者は皆、息を飲み、体を乗り出して聞き耳を立てる。司会者は小声で、
〈社長マジ給料高けー。ここだけの話、早い者勝ち〉と言うと、また通常通りの声に戻して続ける。
〈はい、じゃあ、挙手をしていただきましょう。3、2、1、はいどうぞ!〉
 と司会者が手を上げると、その煽りで会場の半分以上の者が手を上げた。
〈ああ、皆さん社長になりたかったんですね、しっかし大変残念ですねえ、だから言ったでしょ、早い者勝ちだって、ねえ?……え?お分かりにならない?あなた方の目は節穴か?あなた方より少しだけ早く手を上げた者がいるでしょう?はあ?見なかった?うん、そうそうそうそう、はい、私です。チャンスはサッサと掴まなきゃダメよう。ね、はい、じゃあ、君達みんな平ね、これをもちまして社長挨拶とさせて頂きます〉
 つまりは、カリスマ社長の挨拶となった。

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