11/20(月)、NHK-BSの[プレミアムシアター]で放送されたのは、ハンブルク･バレエ団の《ニジンスキー》公演。
タイトルは言わずもがな、伝説のバレエダンサーで振付家でもあったヴァツラフ･ニジンスキー(1890-1950)のことである。
同バレエ団芸術監督であるジョン･ノイマイヤー(1939- )が振付をし、2000年7/2にハンブルク歌劇場で初演を行った。ニジンスキーの没後50年を記念する全2幕の公演だった。
ニジンスキーを敬愛し深く研究もしたノイマイヤーは、振付だけでなく、照明、舞台美術、衣装まで自ら行った。
今回の放送は、2017年5/25,27、初演と同じハンブルク歌劇場で行われた公演の収録である。
第1幕は、1919年1/19午後5時、スイス･サンモリッツ、ホテル･スヴレタ･ハウスのホール、ニジンスキー最後の公演から始まる。この時まだ28歳、自らこの公演を「神との結婚」と呼んだ。
ホールでは、ピアニストがショパンの前奏曲などを練習している。
そこへ、ニジンスキーを崇拝する観客たちが集まってくる。彼らは口々にこの公演について騒がしく語っている。
ダンサーが声を出す(語りある時は叫び泣く)場面は、冒頭以外にもあって、このバレエの特徴の1つでもある。
この作品は、同公演の再現から始まる。
ニジンスキーが通路から現れ、ホールはしんとする。
ショパンの前奏曲ハ短調Op.28-20、そして、シューマンの《ウィーンの謝肉祭》から第1楽章〈道化〉を舞踏の化身のように踊る。
ニジンスキーはディアギレフが現れるのを幻想の内に見る。
セルゲイ･ディアギレフ(1872-1929)は、1909年にパリで、彼がその天分を見出だした若手(19歳だった)ダンサー、ニジンスキーらを集めて、バレエ･リュスを旗揚げした。
ディアギレフはバレエ･リュスの興行主で、ニジンスキーの庇護者、そして愛人ともなった。
様々なダンサーが現れ、彼が演じた《謝肉祭》のアルルカン、《レ･シルフィード》の詩人、《シェエラザード》の黄金の奴隷、《薔薇の精》を、初演のエロティックな衣装で濃艶に踊る。
後に振付家となる妹のブロニスラヴァ、兄のスタニスラフ(子供時代から精神異常の兆候があった)、子供らにバレエを教えた父と母を始めてとして、あちこちで関係のあった人物たちが、夢幻の中に登場する。
ディアギレフは、ニジンスキーが女と踊るのを引き裂き、伴に踊る。
場が変わり、バレエの練習場。
音楽はショスタコーヴィチの最期のヴィオラソナタOp.147の第3楽章アダージョ。
ディアギレフが主導して、ニジンスキーと限りなくセンシティヴなパ･ド･ドゥ。
数人の特徴ある男女も現れる。その中には、後、ディアギレフの愛人ともなるダンサー、テニスラケットを持って溌剌とした若いレオニード･マシンもいる。
ニジンスキーは振付の新しい表現方法を模索する。
それが、スキャンダルにも発展する《牧神の午後》や《春の祭典》に結実することになる
更に場が変わり、客船のデッキの上。
音楽は再び《シェエラザード》。
1913年、南米公演のための航路の途上で、ニジンスキーはハンガリーのバレリーナで真っ赤な服を着たロモラ･プルスキーと出遭う。ディアギレフに相談もせず、二人はブエノスアイレスで結婚する。
それは、ディアギレフの不興を買い、バレエ･リュスを解雇させられることとなる。
第2幕は、《シェエラザード》の甘ったるく古臭い音楽から一転、ショスタコーヴィチの交響曲第11番ト短調Op.103《1905年》、不安と激しさが入り混じる現代的で長大な音楽である。当然バレエも変化する。
バレエ･リュスを追われたニジンスキーは、神経衰弱(統合失調症との説も)に陥り、妻の看護を受けながら、あちこちの精神病院をたらい回しにされ、現代では禁じられている危険なショック療法なども受けることとなる。
時代は、「血の日曜日」事件、第1次大戦、十月革命、そして第2次大戦へと続く。
ニジンスキーは「血の日曜日」事件のデモと暴動に巻き込まれ、第1次大戦ではハンガリーで軟禁され、愛した兄の死に遭遇、次第に内面に閉じ籠るようになり、幻聴を聞く。
そうした光と闇の情景を、ニジンスキーは幻の中に見る。
舞台の奥を兵士がゆっくりと歩く。
踊りは音楽と伴に激しさを加え、ノイマイヤーの振付は観客の予想を遥かに超える。
ニジンスキーと兄の動きは痙攣のようにも見え、現れたペトルーシュカは泣き、黄金の奴隷や薔薇の精は官能を失い、燕尾服にシルクハットのディアギレフは倒れて死ぬ。
床に小さくなって伏したニジンスキーの周囲を制御不能のような集団が行き過ぎる。
群舞は壮絶な「戦争」のダンスへと発展する。
叫び回り足を踏み鳴らす兵士らの間を、妻ロモラは、小さな橇にニジンスキーを載せてのろのろと引く。ニジンスキーの目は何処を見ているか判らない。
いつしか、場は元のホテルのホールに戻り、しかしホールは兵隊が取り巻く。
ニジンスキーは、激しい小太鼓の連打と鐘の打ち鳴らされる中、いつかはその上を颯爽と歩いた赤と青の絨毯を身体に巻き付け、飛び跳ね、もはや滅茶苦茶としか形容できない程の動きの果てに、憔悴して立ち尽くす。
最後の鐘が長く尾を引いて鳴り響いている。
すざまじい第2幕で、バレエは幕が降りる。
観客も雄叫びでこれを称賛する。
出演
ニジンスキー アレクサンドル･リアブコ
ロモラ カロリーナ･アグエロ
ディアギレフ イヴァン･ウルバン
スタニスラフ(兄) アレイズ･マルティネス
ブロニスラヴァ(妹) パトリシア･フリッツァ
他
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