NHK-BSの優れたシリーズである[映像の世紀]、その特別編第3集は『世界を変えた女たち』である。
昨2016年12/3に放送されたものだが、ようやく観る事ができた。
この特集では「激動の時代を生きた女性たち、世界に立ち向かった女性たち」を、新たに発見された歴史的な映像を中心にして物語る。
追った時代は19世紀末〜21世紀の現在に至る。
ここでは、番組で語られた言葉の多くを借用してレポートする。
冒頭は、1897年6月のモノクロ映像。
イギリスのヴィクトリア女王即位60周年祭の模様を写している。
延々と続く列の中心の馬車には、78歳の女王がいる。
身長150cm、夫の死後は喪服を通している。既に足腰が弱っており、馬車から降りる際には、数人の手を借りてやっとという態。
貴族文化の最後を飾った時代である。
『パリ1900』、貴婦人たちのファッションを描写した文章である。作者不詳。
時代と女性の変化を見ていこうとするのに際し、まず最初に読むに相応しい。
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肘の上迄ぴっちりと包むカモシカの手袋は、左右それぞれ32個のボタンで留められていた
愛人の手を握り接吻で覆いたいと願う恋する男は、まず64個の手続きに没頭しなければならない。でも、裸になるのは手だけ。
その後も、恐るべき峠が続く。帽子の留めピンという峠、続いて宝石やアクセサリー等々、デリケートな作業は果てしなく続く。
ボタンを外して、ドレスが払い退けられると、現れたのは、幾重にも重なるレースの花のペチコート。
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この文章がココ・シャネルへの布石として置かれているのは、後から判る。
1901年2/2、20世紀最初の年、ヴィクトリア女王が死ぬ。
長蛇の棺を送る列、棺の後ろにはイギリス国王やドイツ皇帝等が馬に乗って付き従った。
ドイツ皇帝ウィルヘルム2世は、カイザー髭でそれと知れる。
その隣の隣にいるのは、後のイギリス国王ジョージ5世。どちらもヴィクトリア女王の孫である。
近い将来、第1次大戦で敵味方に分かれて戦う運命にある。
ヨーロッパ王室の頂点とも言うべきヴィクトリア女王の死は、要を失った王室同志たちが、相争い、戦争に突入する時代の大きな曲り角でもあった。
彼女の死は、社会にも大きなうねりを起こす。
女性の社会進出に否定的だった女王の死と時を同じくして、女性参政権運動が活発化する。
当時の女性運動家(氏名不詳)の肉声、
「大英帝国憲法には納税と参政は共にあると書いてあります。ですから、納税をする女性に参政権が認められるのは当然です。政治的正義の実現を待ち続けてきましたが、もうこれ以上待つ事はできません」。
1913年6月、エプソム競馬場。
ロンドン郊外において、この日最も権威あるレースであるダービーが開催された。
カメラは決定的な瞬間を捉えていた。
婦人解放運動の闘士だった女性エミリー・デイヴィソンが柵の内からコースに入り、国王の持ち馬の前に身を投げたのだ。
参政権を求めた死の抗議。
しかし驚くべき事に、彼女を悼むにあらず、男性側からはレースをダメにしたと罵る声が沸き起こった。
翌日の新聞記事の紹介。背後には、デイヴィソンの葬儀を写した映像が流れる。
「彼女は貴重な競争馬を転倒させ、もう少しのところでジョッキー迄殺してしまうところだった。
どんな理由であれ、この類の行動が人々の支持を集める事にはならないだろう。
向こう見ずな熱狂が参政権の資格であるとは見なされないのだ。」
支配階級の貴族やブルジョアの男達にとっては、楽しみにしていたダービーが壊された事の方が、身を捨てて訴える1人の女性の命より重大事だったのだ。
アメリカでも始まった女性参政権運動の映像。
デモをする女性達が着ているのは囚人服だ。社会で女性が囚人のような立場を強いられていると訴えた。
この運動のリーダーの1人が「奇跡の人」ヘレン・ケラーだった。
社会運動家として活躍した彼女は、後、FBIの監視対象者に指定された。
自動車王ヘンリー・フォードと面会した時の映像がある。
ケラーは老フォードの顔や唇を触る事で、彼を理解しようとしている。2人の間にアン・サリバンの姿も見える。
フォード個人に対する発言ではないが、ケラーは、企業家や政治家が女性を苦しめていると訴えた。
ケラーの手記、
「私は勇敢で忍耐強いイギリスの女性達や、シカゴの女性達が警官に乱暴されたことに憤慨しています。
これでは人々は自由にはなれませんし、女性に自由が訪れる日などはるか遠い未来のように思われます」。
女性に男性と同じ参政権が認められる迄には、ケラーの訴えからアメリカで7年、イギリスで15年を要した。
(続く)
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