●2015年04月09日(木) 夜が明けて、曇り
▼「ナラトさん、
あれは絶対、ナラトさんが正しいです。
オレ、普段は、絶対、奥さんの味方なんですが、
これは事実問題ですから、ウソを言う訳にはまいりません・・」
▼「ねっ、そうだろう。
キツネくん。
晩ご飯の後、ボクは床について寝ようとしていた。
妻はテレビを見ていて、サスペンスか、なんかのドラマで、
俳優たちが、早口でしゃべってて、そのテレビの音量が耳につく。
そのことを妻に言おうかな、と思いつつ、
言わずにそのままにしていたら、そのうち
眠気が勝ってきて、うとうと眠りについた・・」
「ええ、そのとおりです。
ナラトさんは、いつものように、晩ご飯を食べて少しすると、
ちょっと眠たくなった、ゆうて、寝間でお布団に入りました」
▼「キツネくん。
そのあとなんだ・・・。
ボクは寝ついたあと、夢を見たんだ。
どんな夢だったか、ストーリーは覚えていないのだけど、
敵が空からやってきて、襲撃してくるので、それに備えて
ボクたちは見つからないように、漁網みたいな網(あみ)を張って
空襲を避けようと、必死に、家と家の脇の畑に、網を覆いかぶせようと
するんだ・・・。
ああ、早くしないと、上空に敵機がやってくる・・・、
あせる心とは裏腹に、網はどこかに、ひっかかって、うまく張ることができない・・。
蚊帳(かや)を張る要領で、四隅を引っ張って、漁網みたいな網(あみ)を吊るそう
とするんだが、こんどは、重たくて、ひっぱれない・・・」
「それですね、ナラトさんが、うなされていたのは・・・。
となりの部屋から、なんか、うめき声みたいの聞こえてました・・」
▼「あれっ、そんなに、うなされていた・・?
それで、まあ、ボクは、夢からさめたんだ。
ほっとして、もう一度、眠りに着こうとしたら、
妻が、何か鼻歌を歌っていて、おそらく、『数独』をやりながら
歌っているようだった・・」
「そうなんです。
奥さん、サスペンス見終わって、『数独』はじめたんです。
明日、奥さん休みやから、気分が、よかったからやと思いますが
シャンソンやなくて、なんか流行歌みたいなメロディーを
鼻歌でうたってました・・」
▼「だろう、キツネくん。
たしかに妻は、鼻歌を歌っていただろう・・。
それは間違いのない事実なんだ。
で、ボクは再び眠りにつこうとしたんだが、
その妻の鼻歌が、こんどは耳について寝られないんだ・・。
ボクは、そのことを妻に言おうかとも思ったけど
我慢して、そのままにして、横になって、眠気が来るのを待っていた・・。
でも、妻は鼻歌をくりかえし、くりかえし、同じ曲を歌うんだ・・・。
そうこうしているうち、また眠ってしまった・・」
▼「それで、さっき起きたとき、妻にそのことを言ったら、
『アンタ、すぐに眠って、鼾(いびき)かいて寝てたじゃないの。
アタシ、鼻歌なんか、歌ってません・・』
と、言うじゃないか・・・。 だから、
『いや、鼻歌、歌とうとったって・・』、とボクが言っても
妻は、『いえ、歌っていません!』と、言い張るんだ・・・」
▼「ナラトさん、
事実は、ナラトさんの言う通りなのですが、ナラトさんの言い方、
口調に、なにか、咎(とが)め立てするような所があったんじゃないですか・・?」
「いやいや、ボクは彼女を非難するつもりはないけど、いちおう
こういうことがあった、ということを彼女に伝えたかった、だけなんだ・・」
「ふーむ、それって、やっぱり、非難になりませんか・・・?」
「まあ、そうなるのかも知れない・・。 だけど、ボクが思ったのは、
ボクが、『鼻歌を歌っていた』という事実について言っているのに、
その事実を妻が認めようとしない、そのことの問題点なんだ・・・」
「ナラトトさんは、あくまで、事実関係で争うのですか・・?
白黒をつけたい・・・、ちゅう考えなんですね・・・」
▼「キツネくん。 そこなんだ!
ボクは、はたと気づいたのだ!
土屋賢二先生の『あたらしい哲学入門』をやったおかげだと思うんだが、
これは、
もしかしたら、無意識で鼻歌を歌っていた彼女にとっては、
『歌っていません!』というのは、主観的事実であって、
つまり、歌っていたという記憶が、全然ないということは、
そんな事実は存在してなくて、それは「歌ってない」という
ことなんだ・・、と思ったわけだ」
▼「かつてのボクなら、『ボクが歌っていたと言うんだから、キミは一歩ひいて、
もしかして、ワタシは歌っていたのかもしれない・・・、と、どうして、そのように
考えることができないのか・・』と、さらに問題を深化させ、感情的なこじれを
きたしたと思う・・・」
「ふーん、そうですか。
じゃあ、事実関係は、もう争わないのですね・・・」
「うーむ、必ずしもそうではないかもしれないが、まあ、どうでもいいか
と、少し思うようにはなった・・・」
「そりゃ、そうですよ。
こんな『話』、犬も食わないどころか、屁にもならん『話』ですから・・」
▼「ところで、ナラトさん。
屁にもつかない、きょうの『話』、日記のタイトルは、
なんと、つけたら、いいでしょう・・?」
「ああ、『愛妻物語』と、つけてくれ給え・・・」
「ぎょぎょぎょ・・・、『愛妻物語』・・ですか?」
「うん、そうだ。 『愛妻物語』だ。 きょうは、『naratoスペシャル』の
次の映画をアップだろう。
アップはしなかったけど、新藤兼人・監督の『
愛妻物語』を見たんだ。
▼この『愛妻物語』は、新藤監督の監督第一作目の作品で、自分の脚本家としての
生い立ちを下敷きにしているんだ・・。
そのへんのことは、
ウィキペディアの『新藤兼人』の項目に詳しく書いてあるけど、
溝口健二・監督が、この映画の中では、『坂口監督』という名前で登場して、
いいことを言うんだ・・・。
坂口監督(滝沢修)が、主人公・沼崎敬太(宇野重吉、新藤兼人の役) の
妻・孝子(音羽信子)に、こう言うんだ。
「男というものは、女の支えがないと、ダメなものです。
奥さん、力になってやんなさいね・・」
▼「ナラトさん。 それ、きょうの『話』と、どう関係するんですか・・?」
「キツネくん。 まあ、それは、この言葉には、身につまされる、
ということ・・・。
この映画も、ボクが白黒にこだわることを避けた、もうひとつの理由なんだ。
だから、事実関係は、どうでも、いいんだ・・・」
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