(続き)
昨晩は遅くなって放り出したが、彼の2007年東京都現代美術館展以降の作品にだけ、少し触れておこうと思う。
今展では、それが第6,7章に当る。
第6章のタイトルの中で彼が言っている「絵画連鎖」とは、別の機会に描いた複数の作品を、不規則に繋ぎ合せて見せる手法である。
場合によって、展覧回毎に組み合わせを変えるそうだ。
単品を観て得る印象とは違うものが、観客の脳裏に浮かんでくる。その発展性を観客は自身のイマジネーションを働かせて愉しむ。
この章で採り上げられた作品の特徴は、グリッド(格子)とモノクロームである。
描かれたモチーフの上をグリッド線が網の目のように張り巡らされる。水平垂直な線による場合もあれば、斜線を加えている場合もある。
よくよく見ると、それらグリッドには影のような線が明度を落とした色で脇に描き加えられ、空間的な拡がりが生み出されている。
第4章で初めて使われたコマ割りが、画面全体を覆ってしまったと考える事もできるかもしれない。
コマ割りで得られた時間性や運動性に、ここでは空間性の取得が試されている。
違う言葉で言えば、それは過去と未来、または動と静の性格という事か。
グリッドは、また檻のように見えなくもない。観客は、時に、その檻の中に描かれたモチーフと伴に閉じ込められるような怖ろしさを感ずる。
《図鑑8･隊列》(2007)→【写真1】
第7章では、再び黄色と黒を中村は集中的に用いている。
観客の質問に答え、今しばらくはこのカラー構成を深めてみたいと言っていた。
この章のタイトルにある「消失点」とは、遠近法の要となる場所の事である。透視図には必ずこの消失点がセットされる。古典的に使用されてきた描法で、新しいものではない。
しかし、中村は、画面に遠近感を求める為にこれを使っているのではない。
そうだったら、本画を完成させる過程で、消失点に連なる線は消してしまう筈だが、彼はその線を描いたままにしている。
消失点は2点3点と増やされ、また、前章から使われているグリッドも覆って、画面は直線が複雑にダイナミックに交差している。それに統一感を与えているのは、黄色の中村カラーである。
《三点消失･制服》(2013)→【写真2】
アーティストトークが終わった後、サイン会をしてくれた。
ミーハーの私は、急いで図録(この浜松展の為に限定部数制作したというもの)をミュージアムショップで買い、サインをしてもらった。→【写真3】
図録の表紙内扉も、ペラの出品目録も黄色である。
そう言えば、2階へ上がる階段も1段置きに黄色に塗ってあった。訊くと、浜松市美術館の学芸員氏の発案だとの事。
我等がキュレーターもノリが好い。
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