エイフェックス・ツインことリチャード・D・ジェイムスの、久々の復活作『サイロ』。自分は「エイフェックス・ツイン」以外の別名義でリリースした作品までフォローできてないのでなんとも言えないが、これってひょっとしてリチャードのキャリアでも郡を抜いてポップな作品ではなかろうか。
ポップという言葉に語弊があるのなら、「イージー・リスニング」でも「エンターテインメント」でもなんでもいい。とにかくとっつきやすい。誰もがエイフェックス・ツイン的だと一聴しただけでわかるサウンドがそのままゴロっとわかりやすい形で入っている。具体的には、上モノのシンセの音色やその重ね方だったり、間の取り方だったり、そういう感覚的な「手癖」の部分なのでうまく言語化はできないけれど。
とは言え、2001年の『
ドラックス』からまったく進化してないわけではなく、少なくとも冒頭からの数曲はどこか生演奏っぽいオーガニックなハウス感まで手中におさめている。また、ひとつの曲の中でもドラマチックかつ微細に曲調が変化していく構成もエイフェックスとしては新鮮で、かなり洗練された仕上がり。(別名義ではこういった作品もリリースしていたのかもしれないけれど)
でもリチャードの真骨頂と言ったら、やはり“180db_[130]”から“CIRCLONT14 [152.97][shrymoming mix] ”あたりの中盤に配置された、怒涛のダンス・ナンバーになるだろうか。一旦このリズム・パターンでいくと決めたら、執拗に、偏執的なまでにグルーヴィーに積み重ねる、このヤヴァい感じ。やっぱり癖になる。音のレイヤーとして見たらかなりミニマルな構造なんだけど、たとえば子供の駄々っ子のように身も蓋もなく取り乱していて、ただしその脇目もふらないピュアな感覚こそがエイフェックス・サウンドの最大の美点だと思わせる。
本作『サイロ』は、エイフェックス・ツインという音楽家になにを期待するかによって、おそらく評価が180度変わってしまう作品。エレクトロニカ/IDMを一般化させた功績に象徴されるような、時代を刷新する革新者という側面と、そんなことは関係なく、ただひたすら良質なエレクトリック・ミュージックを書き連ねてプレイするだけの作曲家兼DJという側面。僕はどちらかというと後者としての期待が強いので、本作の若干ソフィスティケートされたサウンドは不満どころか、彼のキャリアでもかなり上位に入るくらい好きな盤になってしまった。
今年は隠居した大物アーティストが、十数年ぶりに数新を突如リリースするという事件が相次いだ1年だった。そんな一連のリリース・ラッシュの中でも、もっとも「帰ってきた感」を強く感じられるのが、実は本作かも。いや、そうやって聴衆に歓迎されるのは嫌いそうな人だけど。
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