【死】
ただいつか生まれる前に戻るだけと言いながらも想像できない
【神】
まがいもなく我を作りし父ならば母護りぬく神となるべし
【月】
明るっ!とフロントガラスの股越しに前かがみに見たポンと満月
ぬばたまの狭い都会の夜空から寝ぼけた月がのぞき目が合う
【恋】
肺の奥、食いたいと声こだましてわなわなと口食いしばる
俯いてはにかむ君を前にして僕らは二人焦点になる
配達の森林をとおる道すがら懸想文ならぬ絵葉書を描く
メールには匂いは無いのだ君たちよ己が下手くそな手紙に熱を
【愛】
スパルタの男ありけり凱旋の後は女房の尻にペシャンコ
【雀】
お向かいの瓦の屋根を光跳ねスズメがあちこちこじゃれて遊ぶ
【音】
葉のうへに置きたる露のひとしづくたもと離れて地にまがひけり
【雨】
ブレーキを踏まざるをえず停車さす激流のごとき驟雨に遭えり
【虹】
出張の帰りの道に陽が這えばあま雲ついて虹立ちあがる
【命】
蝉がごと生きられるなら今この時命はかなし熱く燃やさん
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