【春
待ちわびた花の咲く期のやすらぎに
住み処にこもり背を向くきみよ
伏す父の真白のとこの笑みをして
さむざむと過ぐ春の夕暮れ
ねむねむのおめめをこすりおっきして
まだまだやまぬおしごとのやま
一度だけ店にいらした客人の
心づくしはおかし、ほおばる
曙に栖に戻る逆の鳥の
靄に消え逝く白く蔭
(栖=すみか、逆=さか、靄=もや)
【人生
暗がりを抜け出でたるはいづくにか
花咲く路の光ぞ満つる
降りかかる時のしわざの白雪に
萎みし平の手に覆ふかな
懸命のふたつの文字の隙間には
怠惰ひそまず労わりのあり
【恋愛
宵やみに隠して沸きぬる白波は
天上の月おぼろにて消ゆ
透きとおるあなたの汗の滴るは
コオリとけゆく檸檬のいろに
以上13年5月以前の短歌
赤々とわたしに見せる看板に
恋いこがれるは腹の虫なり 130603
ばか、と泣き、ばか、と笑いてばかと知り
ばかばかしきは我ばかりなり 130604
【梅雨
つかの間のビルの隙間に入り込む
四角い型の青きつゆ空 130604
しとしとと降れる小雨をよけたるも
軒をつたいて鼻つらに落つ 130619
【恋愛
うたかたの夢にかよひて覚えども
長ながし夜に乾びむとかや 130801
(覚え=寵愛を受ける意有)
宵やみに隠して沸きぬる白波は
天上の月のおぼろにて消ゆ 130802
ひさかたの君が容にうつりぬる
ひかり弛ませ叢雲の月 130802
匂ふ風に漂ひあらむ彼の君の
降りそそがるる熱き眼差し 130806
【家族
風鈴の帯のはらます風にみる
祖母の笑みのやはらかなりけり130808
卓上に我置き去りし書の題に
父慌てけり『自殺のすすめ』 1309--
【秋
薄青をにじます際(きわ)に山黒く
天を仰がす仲秋の月 1309--
三日月や空の裂け目に薄笑い
からのシートに知らせたくもあり1309--
熱りたつ蝉の叫びは遠のいて
追いかける雲の渦に巻かれり 1309--
荒塗りの雲に隠れし月影に
我口惜しや垣間見るなり 1310--
叢雲の青く染みたるささやきに
仰ぐ月影出づるを待たん 1310--
美しきひとの命のはかなさは
風に吹かれて散る花のように 131015
夕間暮れ水道水の冷たさに
夏も消え去り背筋もまがり 131026
倒れ伏す鉢植えも割れ酔っぱらい
大風よりも手に負えぬ奴 131026
太陽の出だす力は変わらねど
受くる我らに四季を贈れり 131026
【勉学
回答に個性なるもの示さんと
問いの空き突き故意に弾かる 131026
主張してバツを貰ってほくそ笑む
やっぱり駄目ねと教師査定す 131026
なんでかな傾げた瞳に映すのは
覗いたわたしと消えそうな雲 1311--
真ん丸なトンボのかしらに百八つ
見透かされそうでたじろぐ私 1312--
陽光に透ける薄雲散り散りと
温もりも消え空に溶けゆく 1312--
【取材
ヘラヘラとたどたどと問う学生に
演技混じりでノセまくるオッサン1312-
楠のかたぶきゆく日に照り映えて
我が身尽くせど色はあたらず 140105
近年の年の代わりは曖昧に
神は薄れてなまめかしとや 1401--
五十日親類集いて合わせたる
音なき柏手神なる父へ 140120
如何やうに描かるるべきかと花問いて
舞いて乱れて我立ち尽くす 1402-
【ソメイヨシノ
誰がために愛をしぼりて咲く花か
実にやどらせる生わぬ命よ 140404
忘れさす末期の雪に霞みゆく
花見る夢ぞしばし眺むる 140404
いつの間に梅もこぶしも木蓮も
桜もつつじもすべて散りゆく 140519
ふくれたる下唇のたて皺に
我を抑えし格子に寄りて 140803
【人生
石の上に十年座して腹据えて
十年の時冷ややかに過ぐ 140831
打ち水を丹念に撒きて備えれば
湯気に消したる炎天の石 140831
頑なに突き進みたる山道に
日も見えざれば踏み誤らむ 140831
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