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2014年08月23日01:36

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In the Grace of Your Love/The Rapture

 5年ぶりに突如リリースされた、ザ・ラプチャーの『イン・ザ・グレース・オブ・ユア・ラヴ』は非常に良くできたポップ・アルバムである。

 前作前々作と進化してきたディスコ・ビートを現代的に、そしてサイケ寄りにソフィスティケートさせ、それに加えて“セイル・アウェイ”に代表されるような、芳醇なハーモニーの香りも手中に収めた。タイトル・トラック“イン・ザ・グレース・オブ・ユア・ラヴ”のギターを基調としたねっとりとセクシーなソウル・グルーヴは明らかに新機軸だし、アルバム全体の曲の粒立ちも上々。まさに全方位死角無しの万華鏡ポップ・アルバムと断言していい。

 ただ本作を手放しで絶賛できないのは、たっぷりと詰め込まれた遊び心の部分を含め、すべて自己演出の範疇のように思わせる、そのどこか冷静で優等生的な態度に引っ掛かりを覚える。例えるなら、誰もが酔っ払ってハメを外す飲み会の最中、一見してベロベロに見える男が「このへんでバカをやった方が、宴を心から楽しんでいるピュアな男のように見えるな」と自己分析し、わざと頭からビールをかぶってみせるが実は完全にシラフな男のような鼻持ちならなさ。

 もともとラプチャーとは、パンク的な焦燥感をダンス・グルーヴのマナーのなかに取り入れてしまったことが革新的だったわけで、というか、それこそがゼロ年代以降を席巻した<DFA>の十八番サウンドだったわけで、せっかく古巣に戻ってきたのに十八番を否定されたらおしまいよ、というところはあるわけだけど(笑)。当初からインテリ思考だった彼らが強制的に大人にさせられた(脱パンク化)後にやったのは、若きころの興奮を思い出しながらすっかり危なげなくなった端正なダンス・グルーヴにその記憶を封じ込めるだけだったのかと思うと、なんとも寂しい気持ちにさせられる。

 そう思うと、サーフィンをしている男を収めたこのモノクロなアートワークが、失われてしまった古き良き50年代アメリカの精神を思わせるようで、どこか物悲しい写真になっているのともひょっとしてその音楽性とも無関係ではないのかもしれない。本作をリリースした後、ひっそりと解散していたザ・ラプチャー。はたして彼らはこのとき、自身のサウンドに酔うことができていたのだろうか。
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