●2014年03月12日 (木) 晴れ
▼柳田国男『孤猿随筆』に収められた「狐飛脚の話」は
（一）で始まり、(十七)で終わる。
岩波文庫では p.38〜p.82 の、４５頁ほどの中篇である。
その筆致は、悠揚迫らぬとゆうか、遠いところから説き起こし
ゆったりとして広く見渡しているが、あれもこれもといった
がさつな風がない。また、深く究めているが、これも理に深刻
とゆうことがない。
述べるに際しては、非をあらげず、茫洋にして、かつ明瞭。
語るその様は、鷹揚で、そこはかとなく、ヒュウモアさえ
感じられる・・・。
とでも評したくなるような、その語り口は
「随筆」の名にふさわしい文章であると思う。
▼１頁が約６００字。４００字詰め原稿用紙に換算して、
６７、８枚というところか。
柳田国男がこれだけの文字数と頁を費やして語ろうとするのは、
かつてあった『狐飛脚』という事、その「話」である。
「狐が飛脚使いをしたという話を考究する前に、
順序として上代の狐が、人に対して一般に
今よりも多くの好意をもち、もっと平和な交渉を
保っていたらしい、ということを説いて見たいのである」
と、（一）のおしまいに述べているが、筆者の心づもりが
じんわりと伝わってくるではないか。
▼「狐飛脚の話」が語られたのは、昭和１４年(1939年)。
「先の戦争」が終わる前、６年のこと。
戦争が終わった昭和２０年(1945年)に生まれた私に
してみれば、その「新しさ」に驚かされる。
▼「
柳田国男」といえば、 明治・大正の人。
昭和もあらかた初めの人、という印象が強い。
しかし、柳田国男が亡くなったのは昭和３７年(1962年)８月であり、
わたしが高校２年のことである。
こんな「身近な人」と思ってはいなかった。
▼また、柳田国男といえば「民俗学」。
「民俗学」といえば「昔話の採取」。
そのくらいの意識でしか、柳田国男の著作を読んでこなかった。
語られる「常民」の「昔話」は、当時の人々の暮らしや感じ方を
思い出させることはあっても、ウイキペディアが『柳田國男と歴史学』
の項に記載した、次のような事柄について、私はこれまで、まったく
深く考えることがなかった。
▼ウイキペディア『柳田國男』より。
『
柳田國男と歴史学』
和歌森太郎『柳田国男と歴史学』（NHKブックス）によれば、
國男の問題意識と関心は、常に歴史学と歴史教育にあったことが
記され、國男が長野県東筑摩郡教育会で『青年と学問』と題して
講演した際に、『自分たちの一団が今熱中している学問は、目的に
おいては、多くの歴史家と同じ。ただ方法だけが少し新しいの
である』と述べたことが紹介されている。
そして『日本はこういうフォークロアに相当する新しい方法と
しての歴史研究をなすには、たいへんに恵まれたところである』
としている。
たとえば、ヨーロッパでは１０００年以上のキリスト教文明と
民族大移動、そしてまた近代以降の産業革命の進展のため、
フォークロア（民間伝承、民俗資料）の多くが消滅ないし、散逸
してしまっているのに対し、日本ではそのようなことがなく、
現実のいたるところに往古の痕跡が残っている、というのである。
言い換えれば、日本にはフォークロアを歴史資料として豊かに
活用できる土壌がある、ということであり、『柳田民俗学』とは
このような民間伝承の『歴史研究上の有効性』を所与の条件として
構築されたものということができるのである。
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