●2014年03月08日（土） 晴れか、曇りか
▼起きると３時半を回っている。午前ではなく、午後である。
起きる時間が、午前であっても午後であっても、
「３時半」となると、「ヘンな時間」ではある。
「ヘンな時間」ではあるが、それが今の私の「生活時間」であり、
これは、もちろん、人様にあまり話せる「話」ではない。
▼余分な事を書いていると、きょうも話がそれそうなので、
メモ書きしておいた、『パンセ』 と 「吉本隆明」のことを書く。
勢古浩爾『結論で読む人生論』のことは、幾日か前に書いたが、
喫茶店でパラパラ読みするのには、もってこいの「本」で、
こないだ、また、リファーレに寄ったとき、喫茶店で拾い読みした。
▼「
パンセ」とは「思想」「思考」の意であるらしいが、
「人間は考える葦である」などの章句で有名な
ブレーズ・パスカルの『遺稿集』の
書名でもある。
「人間はひとくきの葦にすぎない。自然の中でもっとも弱いものである。
しかし、それは考える葦である」。
この章句だけが有名な『パスカル』であるが、むべなるかな、『パンセ』
全編を読み通すことは、非常に困難である。
▼勢古は、そう書いて次に『パンセ』の「断章３７８」を引用している。
極度の才知は、極度の精神喪失と同様に、狂愚として非難される。
中ほどだけがよい。
・・・
人が私を中ほどのところに置くのに、快く同意する。
そして、下の端にいることを断る。
それが低いからではなく、ただ端だからなのだ。
なぜなら、人が私を上に置くのも同じように断る
だろうから。
人間の魂の偉大さは、中間にとどまるのを心得ることである。
偉大さは、中間から出ることにあるどころか、そこから
出ないことにある。
▼そして、この引用のあと、こう続ける。
「中庸の徳である。ただし、パスカルの『中間』は微温的である。
『中ほど』の男として見られることに快く『同意する』という
のだ。彼の強さは『中間にとどまる』という点にある。
『そこから出ない』という意志にある。私はもっと積極的に
自ら選び取った『中間』の生き方を推したいのだが、いずれに
せよこれがパスカルの
格率(
マキシム)である」
（なぬなぬ・・！ 「マキシム」などと格好つけてるナー、と私は思う）
▼でも、ふむ、ふむ、なるほど・・。
論語の『中庸』や、福田恆存の『平衡感覚』などを思い出した。
たとえ、如何に浩瀚な書物であっても、仕事上、翻訳者は全編を
通読するであろう。
しかし、その読者は、なんら通読することを強いられてはいない。
読むも読まぬも、自由。パラパラ読みＯＫ、途中で放り投げるもよし。
『パンセ』を通読はしなかったが、勢古は『中庸・中間』を以てして
マキシムとした。
▼しかし、全然、別の箇所の『パンセ』を読んで、私は新たな発見をした。
しかも、それは「吉本隆明」について書かれた文章であった。
（出典：「文芸別冊・さよなら吉本隆明」河出書房新社）
幸福追求の徹底的肯定者として
鹿島 茂
一人の思想家の偉大さというのは単純さと深さにある。
単純だけれどもその底は限りなく深く、文字通り「底知れない」
というのでなければ「偉大なる」という形容詞を被せることはで
きない。
吉本隆明の「単純さ」、それをひとことで言えば、幸福追求の
徹底的肯定、これである。
彼の壮大な理論はすべてここから演擇されている。
そんな馬鹿なと言う勿れ。
人間の本質は幸福追求にあると、現に、パスカルも次のように
断言しているではないか。
'
「すべての人は、幸福になることをさがし求めている。
それには例外がない。どんな異なった方法を用いようと、
みなこの目的に向かっている。(中略)
意志というものは、この目的に向かってでなければ、
どんな小さな歩みでも決してしないのである。
これこそすべての人間のすべての行動の動機である。
首を吊ろうとする人たちまで含めて」
(『パンセ』前田陽一・由木康訳 中公クラシックス)
▼目からウロコの引用、あるいは「マキシム」ではないか。
すべての「人生論」は、畢竟、我が身の「幸福論」に帰着する。
慧眼の勢古さんも、これでは身も蓋もないと思ったのか。
もし「人間が考える葦」であるとするならば、「人生とは考えること」
つまり、「人生とは思想である」とも言える。
ここに言う「思想」とは、『パンセ』つまり「思い・考える」ことである。
何を思うのか？ 何を考えるのか？
それは、「私は何をなすべきか」、「私は何をしたら幸福になれるか」
これをを措いて、ほかに何か、人々にとって真に「切実な事柄」はなかろう
と私は思う。(まあ、人のことはどーでもいいけど・・・)
▼このあと、鹿島 茂の文章は、吉本隆明についてこう述べている。
もちろん、 吉本はパスカルと同じこの前提から出発しながら、
正反対の方向へ進んだわけだが、 前提が同じということは確認して
おいたほうがいい。
すなわちパスカルは、人間は幸福追求を止めないがゆえに不幸で惨めに
なるとしたが、吉本はそうは考えなかった。
なぜか?
パスカルの言うような、幸福追求を止めないがゆえに不幸で惨めになる
人間というのは、基本的にすでにインテリになった人たちであり、
大衆はかならずしもそうとはいえないからである。
▼そして、吉本の「大衆とインテリ」の定義について述べている。
「たとえ社会の情況がどうあろうとも、政治的な情況がどうあろうとも、
さしあたって『わたし』が現に生活し、明日も生活するということだけが
重要なので、情況が直接あるいは間接に『わたし』の生活に影響をおよぼ
していようといまいと、それを考える必要もないし、かんがえたとて
どうなるものでもない」 (吉本隆明「情況とはなにか」)
つまり、自分と家族が生活する範囲以外には無関心である人々、それが
大衆である。
その反対、すなわち、自分と家族が生活する範囲以外の、政治や社会や
文化などに関心を抱き、最終的には自分とはなにか、人生とはなにか、
国家とはなにかなどということにまで考えを巡らすようになるのが
インテリである。
▼では、人々は「インテリ」であるべきなのか？
続きを読みたいところである。
ここで、重要なのは、このインテリというのが、大衆の彼らなりの
幸福追求の仕方 (つまり消費)を、蔑視するか、あるいは憎悪するか、
さもなければ勝手な思い込みで賛美するか、いずれかの態度しか取れ
ないということにある。
なぜなら、インテリというのはどんなインテリであろうと、大衆の幸福追求
の仕方を我慢ならないと感じるか、あるいは少なくとも、なにか別の幸福
の追求の仕方があるのではないかと考えるからである。
・
大衆が彼らなりのやりかた (消費) で幸福を追求するのを肯定することほど
インテリにとって難しいことはない。
たとえ、 自分が同じようにして幸福の追求の仕方をしているにしても、
大衆のそれは許すことができないのである。
それはものすごく卑近な譬えをもちいれば、恋人なり愛人なりとラブホテル
に出掛けたインテリ男が、 そのラブホテルの駐車場が大衆の乗った車で
満杯なのを見て「許せん!」と感じるようなものである。
さらに、その大衆の乗った車が馬鹿でかいカイエンやハマーであると
もっと「許せん!」となる。
そして、この「許せん!」が高じてくると次はどうなるのか？
大衆が馬鹿でかいカイエンやハマーに乗ってラブホテルにしけこむという
ような腐敗堕落した社会はこれを容認することはできないから、根底から
改造しなければならないとなる。
なぜなら、大衆の生活が向上し、富の偏在が生じれば、必然的に、高級
ブランドのスーツをバリッと着こなし、カイエンやハマーに乗って隣に
モデルのような美女をはべらしている金満階級が出現するが、 その反面、
老々介護の親子が餓死していたというような悲惨な事態も発生してくるから
である。
そこで、インテリは、こうした金満階級を根こそぎ強制収容所にぶち込む
ことを夢想しながら、大衆はもう少し別な幸福の追求の仕方をすべきでは
ないかと言い出す。
あるいは、大衆の幸福の追求の仕方は間違っている、 そのことを大衆に
教えてやって罪悪感と死への恐怖を植え付けなくてはならないと考え、
自ら清貧の思想を実践に移し、大衆はすべからくこれを見習うようにと
言い始める。
その行き着く先がポル・ポトの自国民ジェノサイドであることはいう
までもない。
▼あと少し鹿島の文章は続くのであるが、それは「アルバム」の写真にコピーして
貼り付けておいたので、そちらをご覧いただくとして、勢古「本」にもどる。
※「
書き写しノート」つくりました。ご覧下さい。
勢古浩爾『結論で読む人生論』の、パスカル『パンセ』は次のように締めくく
られる。
パスカルは１６２３年、フランス中部の町に生まれた。
一度も学校に行ったことがないというのがビックリする。すべては
裁判官で科学者の父親から学んだ。
若くしてパスカルの定理を発見するなど、物理学上の才能を遺憾なく
発揮したが、２３歳のころから、ポール・ロワヤル派キリスト教の
信仰に入り、１６６２年、３９歳で他界。
（山田風太郎『人間臨終図鑑�機戞砲修譴砲茲襪函◆崟斬稜匱�」のために
主任司祭がやってきたとき、パスカルは「願わくは、神、永遠にわれを見捨て
給わらざらんことを！」と叫び、それから２４時間にわたって一瞬もやまない
痙攣の苦痛にさいなまれてのち、８月１９日、午前１時に息をひきとった、
とある。かわいそうに。
▼ひとは誰でも死ぬ。パスカルでも、吉本隆明でも。
そして、自分で自分のことがわからぬ人もいるが、たいてい、人は
自分の思っていることや考えていることは、自覚がある。
自分で自分にウソをつくのは、そのため、なかなか困難がともなう。
無意識、あるいは潜在的に、「自分」というものがあれば、その「自分」が
「自分」を見ている。
「ウソの考え」は、やはり「自分」でも信じられない。
吉本隆明が「戦後最大の思想家」であったか、なかったか。
そんな事はどうでもいいし、私に関係ない。
でも、吉本隆明は「人間は考える葦である」ということを実際にやった人だ。
そして、「大衆も考える葦である」。
私にとっては、パスカルよりも吉本隆明の方が、いろいろ教えてくれたのは
間違いない。
「吉本隆明」だからといって、何も平伏することはない。
ただ、「そこまでやるかーっ！」というくらい、「吉本」さんは自分で
いろいろ考えた人だと思う。
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