●『平生釟三郎日記』　１９１４年(大正３年)　八月二十三日　

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●『平生釟三郎日記』
　１９１４年(大正３年)

　　　　▼八月二十三日　久シ振ノ雨降ル、実ニ甘露ノ価アリ

　　　　各所ニ於テハ旱魃ノ為メ稲禾死セントスルモノ少ナカラズ。
　　　　農民ハ雨乞ニ忙殺セラレツヽアリタリ。

　　　　独政府ニ致シタル最後通牒ノ期ハ本日十二時ヲ以テ終了シ､
　　　　日本政府ハ自由行動ヲ執ルコトトナレリ。

　　　　膠州湾ヲ無条件ヲ以テ明渡スコトハ、独国皇帝トシテハ
　　　　耐ユベカラザルコトナルモ、後援ナク、又防守スルモ何等
　　　　効力ナキ小要塞ヲ死守セシムルコトハ、単ニ士気維持ノ為メノ外
　　　　何効果アルモノニアラズ。

　　　　士気維持ノ為メ、数千ノ生命ヲ犠牲ニ供セントスル独帝ノ真意如何。
　　　　彼ハ血二渇スルモノニアラザレバ、功名心ノ為メニ常識ヲ失へルモノ
　　　　ナリ。

　　　　余ハ、本邦政府二希望ス、乱リニ強襲ヲ試ミテ、日露戦争ノ際二於ケル
　　　　旅順総攻撃ヲ再演スルナカランコトヲ。

　　　　徐ロニ、膠州湾ヲ重囲ノ裡二置キ、重砲、攻城砲、飛行機、其他ノ
　　　　飛道具ラ以テ、威嚇ヲ試ミ、独軍ラシテ身体・精神共二、昼夜ノ労働ト
　　　　苦慮ノ為メ、疲労セシムべシ。

　　　　彼等ハ必ズ、神経衰弱ト健康ノ類廃ノ為メ、開城ノ止ナキニ至ラン。
　　　　況ンヤ囲中二在ル兵士中、半ハ予後備国民兵ニシテ、東洋ノ各地ヨリ
　　　　俄カニ招集セラレ、牙籌ラ捨テ、銃槍ラ手ニシ夕ルモノナルニ於テラヤ。

　　　　余ハ、日本人ノ名誉ノ為メ、将又、人道ノ為メ、濫リニ人命ヲ損スルノ
　　　　策二出デザランコトヲ望ンデ止マズ。

　　　　単二、武勲二誇ルモノハ、蛮勇ニシテ独帝ト何ゾ撰バンヤ。