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2014年01月28日04:08

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『BLACK COFFEE』


ブラック珈琲の缶は黒くて格好いい
わざわざ「無糖」と言い張っているのだから
珈琲そのものなのだろう
と思えば
キレ味を追究しているらしい


 あなた最近ちょっと太ったんじゃない?
 そんな事ないだろう
 じゃあ、そのお腹の膨らみは?
  え?そう?
 ほら、プヨプヨ!
  こら!


プルトップを引き上げると
飲み口を切り裂く音までシャープに感じて
うたい文句を確認しながら
口元に運ぶしぐさに凝ってみる


  なるほど、キレ、か


脳裏に自分の腹のゆくえが映りこむ


 まあ、あなたお腹が!
  なんだい、どうかしたか?
 だって、割れてるじゃない!
  そりゃあ男だからな
 素敵だわ!
  惚れなおしたかい?


明日から毎朝歩こう


 明日は雨らしいわよ
  え?そうなの?
 雷注意報も出てるわよ 
  マジ?


男は一度決めたことを簡単には諦めない
ブラックを飲み終え、缶をテーブルに叩く
未来が軽やかに響いた気がした



翌朝、大雨にもかかわらず早起きをする
駅に着くと階段が私を見てほくそ笑んでいる
速足で上がりきると
はっ、と忘れ物に気づいたふりをして
向きなおり、駆け降りる
向かいの階段も速足で上がりきり
また忘れ物に気づいたふりをする

同じことを幾度か繰り返し
張り切った太ももをしっかり上げながら電車に乗った

さて、と腹をさすり悦に入る


 課長って脱ぐと凄いんですね!
  そんなことはないよ


いやらしい妄想に顔色を気にしながら
つり革を握りしめ腹に力を入れた


駅に着いても雨は止む気配がない
たくさんの傘とすれ違う中で
ひとりの男の腹に目がとまる 


(勝った!君もたくさん歩いた方がいいよ)


明日は会社の階段で忘れ物をしようと心に決め
自動販売機のブラック珈琲のボタンを押す
雨がこうもり傘を叩く向こうで雷鳴が轟き
ブラック珈琲が顔を見せる
冷たい缶を取りだして


  負けない!


と呟き、雨を弾きながら
無口な朝を颯爽と歩きはじめた





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