●2013年12月11日 (水) 雨
▼電話口の向こうでも、当惑したような
「立売(イタチ)派遣 株式会社」の部長らしき人物の
じれる息遣いが、こちらに伝わってくる。
「今回の件は、B会社のフロントの××様のご依頼で、
当社はナラト様にお電話しています。
新開地のマンション《コーポラティブ○○○○》に
弊社からナラト様をご指名で派遣してほしいとのご依頼です。
先程、××様に確認しましたが、時給については弊社と
ナラト様の間で決めてくれとのことです。」
口にこそ出さないが、「こいつ何様だと思ってやがるンだ。
このご時世に、仕事はパソコンもさわらない、電球交換も
しない、ただ席に座っているだけ、居眠りしててもいい、
それで時給800円で文句いいやがって、なんてぇ奴だ。
太い野郎だ!」と言っているのが、如実にわかる。
▼私も落ち着いて、今回の一件の経過を確認するように、
もう一度、「立売(イタチ)派遣 株式会社」の部長らしき
人物に話す。
「7月末に、B会社を満68歳を超えたので定年退職して、
家で気ままにやっていたところ、先週の金曜日・6日に
B会社のフロント××さんから、突然電話があり、
もう一度働いてほしいとの要請がありました。
9日・11時に××さんにお会いして、私としては、できるだけ
B会社の代務員でカバーしてやってほしい、しかし、どうしても
私に来てほしい、というのであれば、先程お話ししたような
仕事内容で、かつ、いつ出勤するかは1か月ほど前に事前に
連絡を受け、私の都合がよければ出勤する、そのような条件で
構わなければ、お受けすると××さんに申しあげました。
××さんは、それでも構わないので、よろしくお願いします、
ということでした。
したがって、私から再雇用を申し込んだのではなく、今回の件は、
B会社の希望で、御社に××さんがお願いしているものです」
「時給の件も、いくらにするとは聞いていませんが、800円では
以前の時給よりも少ないですし、急に1月4日から出勤と言われ
ましても、私としては応じかねます。
もともと、私は御社に派遣の登録をしたいという意思は全くあり
ません。
したがいまして、そのように、B会社のフロント××さんにも
お伝えください」
▼「立売(イタチ)派遣」の部長らしき人物が、
「ああっっ・・」と思ったか、それとも「あ、すっきりした!」と
思ったか、それは私にはわからないが、両者は、受話器を置いた。
それは、昨日10日の午前中、まだ妻の出勤前のことであり、
妻は夕方、仕事から戻ると、玄関の扉を開けるなり、
「アンタ、電話かかってきた?」と、うれしそうに訊いた。
「いいや、かかって来〜へんで!」
「ほんま。アホやな〜!!」
妻は、B会社のフロント××が、きっとお詫びの電話をかけてきて
泣きを入れると想像していた。
「アホやな〜!!」と、再度、妻はつぶやいた。
「そやな〜、××、上に相談しとるのやろか、それとも、
ひとりで問題、抱えてるのやろか、上司によう報告せえ
へんのやろか、なー」
「そんなの、アンタが心配してやること、ちゃうやろ!
会社が考えることやないの。さぁ、さぁ、ご飯にしょう」
▼きょう11日は、午後2時半に電気屋が来て、玄関に新しい
広角レンズ付きのインターホンを取り付け、台所にも
真新しい換気扇が取り付けられた。
工事が終わったのは、もう夕方、暗くなったころだ。
きのう電話があってから、きのうも、きょうも電話は
ない。
「早く電話して来んと、いよいよ電話しづろうなるのに・・。
何考えとるんか。 それにしても、どうなりましたの
報告の電話をしてこんとは、人にモノを頼んどいて失礼や
ないか!」
「そやナー」
妻は、憤懣やるかたない、といった気分のようだった。
B会社からも、立売派遣からも、電話がなくても
私はちっとも困らないが、こんど、もし、どこかで
フロントの××が私に出会ったときは、どんな顔を
するのであろうか。
そんな心配も、もういらぬ心配であることは
わかっているのだが、つい、私は××の気持ちを
忖度(そんたく)してしまう。
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