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2006年08月06日04:14

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●ニセ管理人日記(10)/■ラクダは砂漠へ (序)

■ラクダは砂漠へ (序)

 ●もしもし
  きつねくまぞうです。

  こんばんわ。

  日本中、きょうは
  どこも暑かったらしい。
  
  いま、夜も更けてきて
  ちょっと マシです。



 ●さて、ワタシ
  きつねくまぞうが、
  「ひみつの夜」とゆう童話を書いたのは
  三作目、で
  三田村先生に読んでもろうて、
  先生は、
  「これは、よう
   でけとる」
  と、思うてくれたんです。

  そのことは、三田村信行先生が書いた
  「もしもし きつねくまぞうです」に
  ちゃんと、書かれています。


      フォト

        偕成社 1983年9月初版


 ●で、この作品は
  ワタシが「創作童話大賞」とゆうコンクールに
  応募した作品で、そのときは、
  「木常熊子」っちゅう、女名前で応募しました。

  三田村先生は、その「創作童話大賞」の審査員もしていて、
  ワタシの「ひみつの夜」に「◎」を入れてくれたんです。


  で、その審査の結果なんですが、そのへんのところは
  三田村先生が、ワタシの話を書いてくれた
  さっきの「もしもし きつねくまぞうです」とゆう
  「本」から引用したいと、思います。


  それは、「本」の80ページから88ページにかけて
  書いてあります。


  以下は、どうして四作目の「ラクダは砂漠へ」が生まれたのか、
  ワタシが、どうして、それを書かねばならなかったのか、
  その説明にもなっています。


  では、三田村先生がお書きになった、そこの部分を
  お読みください。



 ●「ラクダは砂漠へ」 (序)


  「ふーむ」
  読み終わった私は、腕を組んで考え込んでしまいました。

  これでキツネの童話を三つ読んだ訳ですが、今度の
  『ひみつの夜』は、まえの二つとはどこか違っているような
  感じがしたのです。

  どこがどう違うのか、はっきりとはわかりませんでしたが、
  なんとなく、今度の童話にはキツネの気持ちが強く現れている
  ような気がしたのでした。


  この童話の<オオカミ>は、キツネ自身のことなのでしょう。
  キツネも、心の底では、自分の本当の姿、つまりキツネのままで
  暮らしていけたら、どんなにいいだろうと思っているに違い
  ありません。



  私はさんざん迷った挙句、キツネの童話に「◎」を付けて、
  出版社に送り返しました。
  出版社から二重丸を付けていい、と言われていた訳ではありま
  せんが、そうしておけば、ほかの審査員の先生方の目に止まる、
  と思ったからです。



  それから大賞が発表になるまでの何日間というものは、
  私は自分のことのように、わくわく、どきどきしながら
  過ごしました。

  そして、とうとう我慢が出来なくなって、発表の前の日、
  出版社に電話してみました。



  ――創作童話大賞は、もう決まりましたか?

  ――ええ、決まりました。いま、発表の準備を進めている
    ところです。

  ――誰に決まったんですか。差し支えなければ、ちょっと
    教えてくれませんかね。

  ――いいですよ。


  出版社の人は、気軽に大賞に決まった人の名前を教えてくれ
  ましたが、とたんに私は、自分の気持ちが穴のあいた風船の
  ように、シューッとしぼんでいくのを感じました。


  キツネの名前ではなかったのです。


  それでも私は、気を取り直して聞いてみました。


  ――あのう、木常熊子という人の童話について、審査員の
    先生方は何か言ってませんでしたか。
    私は二重丸を付けたんだけど・・・。

  ――ああ、あれは先生がお付けになったのですか。
    誰かの悪戯かと思いましたよ。
    いえねぇ、審査員の先生方も二重丸が付いていたんで
    真っ先に読んだらしいんです。
    でも、みなさん読み終わると、どうも変てこな童話だって
    首をかしげて、それっきりでした。

  ――そうですか。どうも。



  私はがっかりしながら、電話を切りました。
  キツネの童話は、どうやら審査員の先生方のお気に召さなかった
  ようです。

  私はなんだか、キツネが可哀想になってきました。



  そのキツネが久し振りに私の家にやってきたのは、
  <創作童話大賞>が発表になってしばらくたった、ある夜の
  ことでした。


  「どうしたんだね、きみ!」


  私はキツネの様子を見て、びっくりしました。
  だって、ネクタイはひん曲がり、背広やズボンはくしゃくしゃ、
  いつものピカピカの靴は泥だらけで、おまけに、あっちへ
  ふらふら、こっちへふらふらと、立っているのがやっとという
  有様だったのです。

  どうやらキツネは、だいぶ酔っ払っているようでした。


  「先生、水を一杯ください」


  ソファーにどさりと倒れ込んだキツネは、そう言うと、
  ふうっと、お酒臭い息を吐き出しました。

  私がコップに水を汲んで持っていってやると、キツネは一気に
  飲み干して、また ほうっと、大きな息をつきました。



  「先生、僕は苦しくてしょうがないんです」

  「病気かい?」

  「いえ、病気じゃありません。あることで、とっても悩んで
   いるのです。その悩みを忘れようとしてお酒を飲んでみたの
   ですが、やっぱりダメでした」

  「きみ、あんまり悩まないほうがいいよ」



  私は、慰めるつもりで言いました。



  「何も<創作童話大賞>だけが、賞じゃないんだからね」

  「先生はご存知だったのですか」


  キツネはちょっと びっくりしたようでした。


  「まあね。賞の審査をちょっと手伝ったものだからね。
   それは兎も角、くよくよ悩んでないで、なに糞っ という
   気持ちで、新しい童話を書いたらいいじゃないか」

  「ああ、先生は僕が、<創作童話大賞>に落ちてがっかりして、
   それでお酒を飲んでいると思ってるんですね。そうじゃ
   ないんです」



  キツネは、ソファーに座り直すと、真面目な顔つきで話し出しました。



  「そりゃあ、はじめは僕も、すごくがっかりしました。
   でも、そのうちに、先生のおっしゃるとおり、なに糞っ
   ていう気持ちが湧いてきて、また新しい童話を書き始めたんです。
   でも、途中で、ひょいと あることに気がついたのです」

  「ほう。どういうことだい?」

  「つまり、どんなに上手に人間に化けていても、僕はキツネです。
   でも、誰もそのことは知りません。ですから、僕がいくら
   自分の本当の気持ちを童話に書いても、僕がキツネだと
   知らない人たちには、わかってもらえないだろうって、
   いうことなんです」


  「うーむ。そりゃそうかも知れないなあ」

  「ですから、僕の童話を本当にわかってもらうためには、
   僕がキツネだということを、みんなに知らさなければ
   ならないのです。でも、そうすると・・・」

  「そうすると、きみは市役所を追い出され、どこにも行くところが
   なくなる」

  「ええ、それで悩んでいた訳です」



  そこでキツネは苦しそうに、眉をしかめ、何かを飲み込むように
  ゴクッと 喉を鳴らしました。



  「でも、本当のところは、僕の悩みはもう終わっているのです」

  「えっ、終わった?」

  「ええ。苦しかったけれど、ようやく決心がつきました。
   <ラクダは砂漠に帰り、キツネはキツネになる>――という
   わけです」


  「なんのことだい。そりゃ」

  「何でもありません。これを読んでくだされば、わかります」



  そう言ってキツネは、背広の内ポケットから一束の原稿を
  取り出しました。

  それは、キツネが書いた四つ目の童話でした。






 ●以上が、三田村先生が書いてくれた、そのときのワタシの
  様子です。

  また、そのとき、ワタシがソファーに座っているところを
  佐野洋子さんがスケッチしてくれたのが、前にも紹介した
  この「絵」です。



      フォト



  ワタシ、どことなく「漱石」に似ていると思いませんか。



  
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