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2013年11月14日23:27

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彼女を堕とせ 蜘蛛のように(第6章)

 チラリと振り返って優香を見ると、彼女も気まずそうにこちらを見ていた。

 そして視線が合った瞬間にあわてて視線を前方に戻し、電話の相手と話をする。

 その仕草に違和感を感じたが、こちらも着信が来ている以上どうしたものかと思った瞬間に携帯の振動が止まった。 つまりは着信が切れたということだ。 

 液晶画面に映る不在着信の文字と見たことの無い電話番号が名残惜しげに画面に表示されていた。

 かけ直すか? 迷う俺の後ろから優香がオズオズと声をかけてくる。

「ご、ごめん……わ、わたし……その……急用が……できちゃった……だから、ちょっとまた後でメールするね」

 心底申し訳なさそうに、でも劣情を刺激するような切なそうな顔で優香が用事あると宣言する。 

「……わかったよ、でもまた近いうちに今度こそ二人っきりで昼食を取ろうよ……約束だよ?」

 理解ある男のように振舞って、またご機嫌取りも兼ねた小指を繋いでの約束を促して優香はその場を後にした。 その後姿が遠くなり、そのまま消えてしまうまで俺は彼女を見張って、すぐに謎の番号へと電話をする。

 プルルルル……プルルルル……。 

 無機質な呼び出し音を耳にしながら、心の中で何度も落ち着くように自身をなだめる。

プルルル…プルルルっ……「ハイモシモシ……何か用かしら?」

やっと電話に出た受話器の先にある相手は落ち着き払っていた。 その落ち着きぶりに無性に腹が立ち、

「何か用じゃない!何なんだあの画像は!」

 ここ何年も出していない怒鳴り声を思わず出してしまう。

「……ずいぶんと慌てているわね、少しは落ち着いたらどうなの」

たしなめるような言い方に冷静さを取り戻す。
 
「……急に怒鳴って悪かった……でもあの画像を一体何のつもりで送ってきたんだ?」

「変なところで素直なのね、クスクス……変な人」

 笑う相手の挑発に乗らないように一度落ち着いてから再度問いかける。

「あの画像は一体どういうつもりなんだ?何人にばら撒いたんだ?」

「あら……いつ私が貴方以外に送った何て言ったの?」

「……そ、それは……」

「あらあらそれで勘違いしてあんなに走っていたのね……私の親友さんを奪うように引っ張っていて……まるで囚われのお姫様をさらう王子……もしくは悪役ね、どんな気持だったの?私がほんの気まぐれで送ったあの画像を見て、学校では必要以上に交流しない自身の約束を破ってまであの娘の教室までまっしぐらに走っていったときは?聞かせて?ねえ聞かせて?聞かせて聞かせて……ふふふ……ねっ? 聞〜か〜せ〜て」

「……挑発には乗らないよ……まあ君が想像している通りだろうがね」

「直接口から聞かせてくれないとつまらないわ……大事な言葉はいつだって素直に告白するものよ?特に女の子相手にはね」

 何が女の子だ! ドロドロの真っ黒に染め上がった内面をした奴が女の子だって? そんな奴と話すのなんて冗談じゃない……ましてや優香の傍にそんな存在が居るなんて優香が穢れてしまう!全く……そんな存在は一人だけで十分なんだよ!

「とにかくそれ以上くだらないことしか喋らないなら切るぞ」

「自分からかけてきたくせに……自分勝手な男ね」

 やや拗ねた言い方に幾分毒気が抜かれたが、気を取り直して

「とにかく……もう切るぞ!」

「どうぞご自由に……私もそろそろ忙しくなるころだから」

「……?どういう意味だ?」

「別に……こっちの話よ。とりあえずもう切るわよ。ああそうそう……頑張ってね」

 それだけ言うと女はあっさりと電話を切ってしまう。 もう一度かけなおそうと思ったが、何か足元を見られるような気がしてそれは出来なかった。 

 電話をポケットにしまいこみ、俺は校舎の壁に背中をつけてズルズルとそのまま座り込み視線を上げる。 

 どうもいけない。完全にいけない。 俺はあの女に完全に手玉に取られている。   


 確かに相手はこちらを知っているが、こちらは女のことを知らないということはあるが、それ以外の……例えば先ほどの頭に血が昇っての強引な優香の連れ出しは完全に不味かった。

 優香は内心喜んでいたようだが、そんなことはどうでもいいことだ。 問題はまんまと踊らされてしまったことなのだから。

 ふぅと大きく息を吐いて、そのまま引きずられるように横になって空を覗き込む。

 視界の左半分を校舎が右半分を樹木に遮られ、まるで切り取られたような空の青さを見て自分自身の青さとどっちが上なのだろうと馬鹿なことを考えていた。

 校舎裏から教室に戻ってくると、まるで練習したかのようにクラスメイト達がこちらへと向き直る。 全くなんだっていうんだ……他人の行動がそんなに珍しいのかよ、まあ確かに珍しいことをやったわけなんだが……。

 何人もの視線をそ知らぬ顔でスルーして席に着く。 そして次の授業の準備を始める。

 その間にも肌に直接感じることが出来るほどに強く見られているのに気づいているが、反応はしない。 とにかく早く授業が始まることを祈るだけだ。 

 しかし教師は中々来ない。 そういえばこの授業の教師は少し遅れて教室に来る人だった。

 ため息と内心のイライラを我慢するために強く歯を食いしばり、頭を冷静に戻すために先ほどのメールを見直す。 そこに写っている画像を見て、そしてそれが広まった時を想像して胸を痛める。 

 これが皆に見られてしまったら優香はどうなってしまうのだろう?

 心の苦痛に顔を歪め、怯える表情がはっきりと想像できる。

 全く一体どこの誰が優香を苦しめる権利があるんだろうか?

 俺は卑劣な男だけれどサディストではない。 何の意味も無く彼女を苦しめることなんて決して出来ない。 

 けれどもあの女は違うようだ。 昨夜見たあいつは造形こそ綺麗だったが、ターゲットをいたぶって悦に浸るような下衆な心性が見て取れた。 

 俺のもっとも嫌いな人間だ。 何の意味も無く、理由も無く、強い喜びも、小鳥の羽程も慈悲すらなく、ただただ消費するだけの存在。

 そして俺はそんな人間を……ブブブッブブッブブ。

 メールを受信した表示が出て、携帯が震える。 差出人は例の如く先ほどの画像を送ったアドレスと同じだ。 無感情にメールを開く。

『ちゃんと教室に戻れた? さっきの画像なんだけど、よく撮れているから演劇部の皆にも送ろうと思うんだけどどうかしら? 貴方の意見を聞きたいわ』

 意見だって? 分かりきったことを聞く女だ。 そんなことはさせないに決まってるじゃないか! 

 無視して携帯を閉じようとするが、下にまだ文章があることを示すカーソルが右隅に表示されている。

 最初に読んだ文章の下に空白部分があり、その下にもまだ文章があるようだ。 カーソルをスクロールダウンさせていき、そこにあった言葉に全ての終わりを覚悟させた。 


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