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2013年11月14日23:16

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彼女を堕とせ 蜘蛛のように(第6章)

翌日の学校ではうつらうつらと取り込む様に迫る睡魔と闘いながら俺はボンヤリと窓の外を見ていた。

 自宅に帰った俺はすぐに優香にメールをした。 遅くなってしまった以上寝てしまっている可能性もあるからだ。 

無神経に眠っている彼女を起こして話をすることは俺の中ではありえないことだ。 最悪な男だからこそ、普通以上にそういうところには拘っていきたいと思っている。 全く無意味な自己満足ではあるけれど……。

 返事はメールではなく電話で帰ってきた。 着信を示す項目に浮かび上がる優香の文字が今はすごく儚く見える。 先ほどの謎の女から知らされた事実が原因なんだろうか?

 だが……、だが俺はそれを責めることも怒る資格もあるはずが無い。 

 俺はゆっくりと通話ボタンを押す。 そしていつもどおりに穏やかに電話口に出る。 そのゆったりとした行動が俺自身の覚悟を示すものだと思って……。

 会話の内容はわざわざ言うこともない程度の内容、俺の言葉で奮起して頑張って話したよとか部活でやる演劇の打ち合わせ等、どうでもいい内容だった。 だが俺はその言葉一つ一つに一喜一憂して大げさに騒ぎたて、そして最後に優香を優しく静かに褒め称えた。

 電話の向こうで優香の嬉しそうな顔が思い浮かぶ。きっと彼女も俺の表情を想像していたことだろう。もっとも実際の俺は無表情で、あの女のことだけが脳内の大部分を占められていた。

 そして普通の恋人同士がするようにおやすみを言って電話を切った。 ちなみに東田からのメールは無かった。 まあ来てもうざったいだけなんだけどさ。
 
 フワリとあくびが出た。 それを手のひらで隠しながら相変わらず俺は窓の外を見ている。 俺の席は教室の一番奥の隅で、いまやっている授業の内容は古文であるので、教室内は教師のブツブツという呪文めいた教科書の朗読が奏でられていて、大多数のクラスメイト達は俺と同じように睡魔と闘い、そして一部の生徒は見事ノックアウトされて机に突っ伏している。 

 半分ふやけた頭であの女が何をするのかということを考えつづけていたが、やはり思いつかない。 当然だ。 俺はあの女ではないし、予想するには情報が足り無すぎる。 

 何の装備も持たされないで海底に放り込まれたようなもんなのだから。

 ここはきっぱり思考を切り替えるべきではあるが、倒れたら熟睡してしまうほどに弱りきった状態ではそれすら出来ない。 ただただ漫然と攻撃終了の合図を待つだけだ。

 そのときポケットに入れておいた携帯メールが震える。 小さく数回震えて止まったところを見るとメールを受信したようだが、一体誰だろう?

 優香である可能性は……無い。 なぜなら俺の携帯は受信相手によって着メロとバイブのパターンを変えられるのでこの震え方は優香のものではない……では東田か?

 それもまた別のパターンで登録しているので不正解だ。 ということはこのメールは登録していないアドレスから来たということだが、迷惑メールだろうか?
 壊れたテープレコーダーのようにブツブツと音を発する教師の目を盗んで、ポケットから携帯を取りだして開く。 

 やはり知らないアドレスからで、何の文章もつけられていない……ただ添付ファイルが添付されており、それを開くかどうかで一瞬迷ったがボタンを押し込んでそれを開いた。

 受信中の表示が出た数秒後、開かれた画像を見て俺は天井を見上げる。

 そうか……わざわざあそこに現れたのはこれもあったのか……。

 しばらく目を瞑り、小さく息を吐いてきゅっと口元を閉める。 時間を見ると時刻は11時45分、授業の残りはあと五分だ。 そしてその後には昼休みが待っている。 

 ああこれからの一時間はおそらく人生の中で最大限の注意と覚悟、冷静さを持って対処しなければならないだろう。


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