4/18(木)、年1回の胃カメラ定期検診の後街に出、シネマe-ra浜松で『塀の中のジュリアス・シーザー』を観る。
何処から何処迄が虚構なのか事実なのか、進展と伴に入り混じり、考えさせられる映画だった。
建て前はこうだ。
イタリアのレビッビア刑務所では、更生プログラムの一環として、囚人達による演劇公演が毎年行われ、所内ホールで一般公開されている。
演出は2002年からファビオ・カヴァッリが当たっており、今回(2012年)はシェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』が演目として選ばれ、その模様が、パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニによって映画化された、と。
その通りであるならば、カヴァッリ演出の演劇をタヴィアーニが記録した、つまり映画としてはドキュメンタリーと言うべきだが、事はそう簡単ではなさそうだ。
観ていて、これがドキュメンタリーだとは誰も思わない。
映画は、舞台の『ジュリアス・シーザー』がクライマックスを迎え、拍手に応える囚人達の笑顔の場面で始まり、そして彼等はそれぞれ監房に帰っていく。
字幕が現れ、6ヶ月前に時間は巻き戻される。
刑務所内の集会所だろうか、今年は『ジュリアス・シーザー』をやるとの発表。
囚人達のオーディションが小さな部屋で始まる。
シーザー役、ブルータス役、キャシアス役、アントニー役、その他を人選する為、囚人達には、氏名,誕生日,出身地,父親の名を言うように、その時2種の背景、つまり、1つは国境で妻に別れを惜しみながら、もう1つは強制されて、という場の前提が併せて指示される。
囚人達はそれぞれ個性たっぷりに、悲しみと怒りを交えつつ演技をする。
実際のオーディション風景を撮ったドキュメンタリーとして、観客は映画に吸い込まれる。静かな演技もあれば、爆発的な感情表現も、そしてコミカルなものもある。
しかし、事後によくよくプロダクションノートを読むと、全部タヴィアーニによる脚本が与えられ、それに沿って映画は撮り進められたのだ。
決定した配役は、プロフィール写真と共に、役名,本名,生年,出身地、そして罪状が紹介される。
主役のブルータス役は、本名サルヴァトーレ・ストリアーノ,(中略)組織犯罪により2000年1/11逮捕、刑期14年8ヶ月、とだけ。
しかし、実際は、彼は2006年の恩赦で減刑出所し、今は自由の身で職業は俳優。役者としてこの映画に集められたのである。
また、舞台演出家ファビオ・カヴァッリ、彼の囚人劇団における任務は事実の通りだが、この映画の中では、脚本で与えられたセリフを言い、自身カヴァッリを演じているのだ。
こうして見ると、映画は決してドキュメンタリーではない。
シェイクスピアの『ジュリアス・シーザー』という、ある意味で大変危険な劇を採り上げる事も、タヴィアーニの深謀の下に決定され、刑務所当局にもカヴァッリにも落とされているのだ。
カメラは、刑務所内、相当自由に移動する事を許されている。
集会所や通路,遊戯室,図書室等の公的空間だけでなく、監房の中に迄入り込んでいく。
アングルも、考え抜かれたもので、ドキュメンタリーのような制約感は感じられない。
ひょっとすると、全部スタジオのセットで撮ったのではないか、と迄勘ぐってしまいかねないが、まあ、それはオーバーだろう(笑)。
何処迄が事実で何処からが虚構かは、無論観客に委ねられている。
ヒントは事実から貰ったが、その後、タヴィアーニの巧妙な意図の下、ドキュメンタリーとフィクションとをイリュージョンで重ね合わせ、微妙な線引きの中で創作された映画だと私は理解した。
当然メタ構造が随所に、そして全体に色濃く織り込まれている。
映画の登場人物は、まず囚人であり、役者であり、そして彼が演ずるブルータス等『ジュリアス・シーザー』の登場人物でもある。
1つのシーンを、1人の人物を、角度を変えて見てみると、全く違う図像に見えてくる。
人物の心理は、刑務所に拘置された囚人の抑圧であり、絶望であり、そして、役柄の裏切りであり、焦燥でもある。
しかし、ブルータス等の陰謀や謀議、徒党や反乱は、囚人にはあってならない側面である。
刑務所当局の考えは判らないが、敢えて『ジュリアス・シーザー』という演目を選択する事で、タヴィアーニは、不穏な空気を映画の中に持ち込んだ。実にラディカルな映画である。
芝居の後監房に戻ったキャシアス役のコジモ・レーガは、映画のラストで言う、「芸術を知った時から、この監房は牢獄になった」。
監督・脚本 パオロ&ヴィットリオ・タヴィアーニ
脚本 ファビオ・カヴァッリ(共同)
撮影監督 シモーネ・ザンパーニ
編集 ロベルト・ペルビニャーニ
出演 サルヴァトーレ・ストリアーノ,ジョヴァンニ・アルクーリ,コジモ・レーガ,ファビオ・カヴァッリ他
受賞 ベルリン国際映画祭金熊賞/エキュメニカル審査員賞、他多数
2012年/伊
胃カメラは問題なかった事を、最後に書き添えておきます。
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