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2013年03月09日23:04

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Goblin/Tyler, The Creator

 ゴキブリを喰って嘔吐した挙句、最後には首を吊って死ぬという“ヨンカーズ”のPVが、OFWGKTAの頭領、タイラー・ザ・クリエイターの露悪趣味を象徴している。

 このいかにもアホな中二病がヨダレを垂らして喜びそうなブツに対して、カニエ・ウェストやアデルといったセレブリティがこぞって賞賛の声を上げるのは、なにもOFWGKTAの巧妙なイメージ戦略の成果だけでは説明できない。事実、タイラーのメジャー・デビュー作となる本作『ゴブリン』には、彼の子供じみたリリックにも説得力を持たせられるだけのヴィジョンがしっかり映し出されているから。

 このブラック・ポップ界のジョニー・ロットンをみずからのフィールドに引き入れたい巷のインディ・ロックのメディアは、本作を「ロックのフィーリングを持ったオルタナティヴ・ヒップホップ」と紹介していたようだが、それはまったくの誤り。1曲目“ゴブリン”にていくら薄気味悪いギター・サンプルが聴こえてこようとも、実はタイラーがジョイ・ディヴィジョンを愛好するネクラな少年だったことが判明しても、本作に封じ込まれたオールドスクールなヒップホップ感までは消すことはできない。

 わかりやすいフロウの展開は極力省き、近年のベース・ミュージックからの影響を反映させた不穏なシンセの上モノ、確信犯的チープさに振り切ったビートの質感。バリトン・ボイスを効かせた野太いラップ。さらに、今や「時の人」となったフランク・オーシャンが甘い歌声を聴かせる“シー”といったメロウなトラックをさり気に忍び込ませるクレバーな戦略性。それでいて、ひたすらダークで、グロテスクで、いちいち聴き手の生理的な嫌悪感を刺激してくる。

 そもそも本来ブラック・ミュージックとは、それがポリティカルな表現であれ、ジェントルな表現であれ、根底には「生」(あるいは性)を謳歌することを肯定的に捉えたポジティヴな音楽だったことを考えると、本作のネガティヴさは極めて異質。濃厚に「死」の匂いを漂わせたこのサウンドスケープは、明らかにどんなシーンとも相容れない強烈な個性を放っている。

 独特な世界観そのものを作り出したという点において高く評価したいところだが、ひとつのポピュラー・ミュージックとしての完成度、ひいてはタイラー自身のポテンシャルの有無については、ひとまず発言を控えさせてもらたい。というのも、こんなエグいサウンドが延々と72分も続くと、ヤワな自分はさすがに気持ち悪くなってくる。純粋に評価できない、という話。
 ラップの中で、いったい何百回「FUCK」が登場しただろうか(笑)。終わるころには本当に自殺したくなるくらい絶望的に気分になる。それでも懲りずに聴きたくなって、また死にたくなる。俺、マジでヤバいかも。
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