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2012年12月09日16:16

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■兆民と子規(1) 中江兆民『一年有半・続一年有半』 早坂暁

●2012年12月09日(日) 晴れ、風強く外寒し

 ▼きょうは外へ一歩も出ていない。
  風強く外寒し、とは
  学校に行った帰りに、我が家に寄ったチカの弁である。

  ジャガイモ・タマネギは重たいので、今度、ショウが車でやってきたとき
  渡すことにした。この寒さと冷え具合なら、ものは正月までは充分もつ。
  昼メシは、と聞くと「家に帰って食べる」という。

  妻はアイロンでダウンコートの皺を伸ばして、「こっちを着て帰り」と
  着て来たコートを袋に詰めて、若者向けの店で買ってきたというコートを
  チカに着せてみた。

  色白で、にこっと笑うと
  少し落ち着きが出てきたように思う。
  アツシの分の小遣いと、いつものようにお土産を渡し
  ホットココアを飲んで、チカは帰った。

 ▼忘年会で仲間の片肺切除の話を聞き、神戸の喉頭癌の叔父の
  ことを思ったりして、どこかで読んだ話を思い出そうとしたが
  なかなか思い出せない。

  たしか、中江兆民の『一年有半』と、正岡子規の『病牀六尺』か
  『仰臥漫録』に触れて書いていたはずだ・・。

  山田風太郎『人間臨終図鑑』の兆民と子規の項を見るが、
  この文章ではない。
  長谷川櫂『俳句的生活』には、『墨汁一滴』『病牀六尺』に触れて
  子規の最期となった糸瓜(へちま)の句をあげているが、これでもない。

  私が読んだ「本」で、人の死にようを比較するみたいなことを書く著者といえば、
  出久根達郎、福田和也、関川夏央・・などだが、探して見たが
  どの「本」にもなかった。

 ▼それが、ひょんなことで見つかった。
  「ブック・アサヒ・コム」である。

  このサイトは、以前は「asahi.com」の中に「エンタメ」「ブック」「たいせつな本」
  という下位のメニューが設けられていてた。
  しかし、現在「asahi.com」にアクセスすると、「エンタメ」「ブック」のサブメニューは
  あるけれど、「ブック」を選択すると、上記の「ブック・アサヒ・コム」に
  飛んでしまって、「思い出す本・忘れない本」や「書評・コラムを読む」
  「本に出あう」「みんなの本棚」というメニューはあっても、「たいせつな本」は
  なくなってしまっている。

 ▼しかし、削除もれなのかどうか、知らないけれど、
  asahi.com>エンタメ>BOOK>たいせつな本>記事
  という、下位のメニューで生きているものがあった。
  それは、早坂暁さんの「たいせつな本」であった。

  ・中江兆民『一年有半・続一年有半』 早坂暁(上)掲載2009年3月15日
  ・正岡子規『仰臥漫録』 早坂暁(中)掲載2009年3月22日

 ▼そんな訳で、このサイトのこのページがいつ消えるか分からないし、
  リンクが切れてしまう恐れがある。
  叱られるかもしれないが、以下、全文を引用する。

  ◇中江兆民『一年有半・続一年有半』 早坂暁(上)
   ■死を恐れぬ明治の男、昭和の男も死と対決

    人にとって大切な本は、人生最終の帰結である“死”を納得させて
    くれる本だと私は思っている。

    50歳のとき、突如として病気の集中豪雨に襲われた。
    心筋梗塞、胃潰瘍、膵臓炎、胆石、大腸ポリープ群などなど。
    突然の襲来かと思ったが、ナニ、たばこは1日100本、3食は
    すべて肉食、酒をくらい、睡眠3時間の仕事生活の当然の帰結であった。

    さて、胃は全摘してもらい、心臓は半分が壊死しているから、開胸して
    バイパス手術をすることとなったが、直前に胆嚢に癌が発生していることが
    わかった。

    絶体絶命の四文字が脳裏を飛びかう。
    しかも胆嚢の癌は力強く進行していて、手術しても余命1年半と
    告知されてしまったのだ。
    突然に死と向かい合って、泥縄の死の研究にとりかかった。

    心のある友人がたちまちエリザベス・ロスさんの『死ぬ瞬間』、
    キルケゴールさんの『死に至る病』を差し入れてくれるが、
    キリスト教をベースにした死の研究本だ。しっくりこない。

    「おい、これはどうだ」と、さらに心ある友人が中江兆民さんの
    『一年有半』をもってきた。東洋のルソーといわれた兆民さんが55歳のとき
    喉頭癌になって手術をしたが、「余命はいいとこ1年半」と医者にいわれて、
    さらばと『一年有半』『続一年有半』という本を書いて、死と対決したのだ。
    明治34年刊行で20万部を超える大ベストセラーとなったのだからすごい。

    「これ、これ」とばかり読んでみると、すごい。
    なんと「一年半というが短くはない。わたしにとっては悠久だと言おう。
    私は虚無海上の一虚舟だ」と喝破して、死なんか恐れていない。
    坂の上の雲を目指す明治の男は、平気で死んでいくんだぞとカッコいい。
    タハッ! 同じ余命1年半の昭和の男にはカッコよすぎて、どこか腑に
    落ちないが、時間はない。
    これでもって、死と対決するしかないと覚悟を決めたのだ。(作家)
     [asahi.com たいせつな本・掲載2009年3月15日]



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