■夏の墓参り
●孫のところに、電話をする。
「もしもし、じいちゃん。
淡路行く人、おるか？」
３、４日まえに電話をして、梅雨が明けたら、
淡路に墓参りに行くけど、誰かいっしょに行く人は
いないか、孫たちに、はかってみるように言っておいた。
前回の電話に出たのは、一番年上の孫の、中二になった
ショウだったが、今回もショウだった。
「おい、じいちゃんから。
誰か、淡路行くか？」
そう、ショウが、ほかの二人に聞いているのが
受話器越しに聞こえてくる。
●孫を連れて、だいたい毎年、春休みか夏休みに、淡路に
墓参りに行っている。
行ったら、叔父の家に泊まり、家の前にある池で魚釣りをしたり、
海で泳いだり、近くの山に登ったりしている。
母が亡くなったときに、母の里である淡路と縁が切れないように、
祖母たち、母方の先祖が眠る隆泉寺に墓をつくった。
母が亡くなり、父も亡くなったあとは、私は思い出したように、
父母の法事をやるために、淡路に行くほかに、孫たちにも、
自分の子供たちにしたのと同じように、夏であれば、カブトムシ
をとるのを兼ねて、淡路に行くようにしてきた。
●孫も少しずつ大きくなってきて、夏休みにも、学校のクラブの
サッカーやテニスなどの活動がある。
それと、じいちゃん・ばあちゃんや、親からの「独立」もある。
「淡路行き」は、孫にとって、前ほど、そう魅力的なものでは
なくなっている。
どちらか言えば、じいちゃんへの「おつきあい」みたいになって
きつつある。
前回、ショウは行かなかった。
「チカが行くいうとる」
「そうか。ほかは行かないのか。
もう、みんな大きくなって、淡路行くのも
今年あたりが最後かもしれへん。
もう、一回、相談してみて」
そう、ショウに言って電話を切った。
●そばで聞いていた妻が、
「あんた、強要したら、あかんわ」
と、注意した。
でも、孫を連れて夏に淡路に行くのは、本当に、今年が
最後になるかもしれない。
汗をふきふき、墓石を洗うにしても、そこに子供の声が聞こえるのと
年寄りだけとは、雰囲気はかなりちがったものになる。
淡路には、一泊するつもりだが、夜になれば、
町場では見えない、大きな星が見えるというのに。
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