mixiユーザー(id:1040600)

2012年06月16日22:47

53 view

■かわせみ色

●2012年06月16日(土)  雨

 ▼「じいちゃん、今から出るわ!」
  「あっそう。じゃあ待ってるから・・」

  夕方から、焼酎をロックで呑んで
  いい気分で寝ているところをアツシの電話で
  起こされた。

  妻が、朝、「きょうか、明日、サイコたちが来るって」
  と、言っていた。

  妻は、きのう、「びわ狩り」とかいう日帰りツアーに
  友達と出かけ、お土産に「びわ」を買ってきた。
  朝、ムスメに電話して、
  「早う取りに来んと、びわ腐るよ!」と、
  連絡してあった。

  ムスメの話では、案の定、
  アツシは、今月のお小遣いをもらいに
  行きたいと、もらしていたそうだ。

 ▼ドアを開けると、メガネをかけた
  アツシが立っていた。

  「どうしたの、眼が悪くなったのか?」
  「いいや、UVカットの眼鏡だよ」

  「ふ〜ん、そうなんか」
  眼の保護なのか、おしゃれなのか、私には
  よくわからないが、近眼でなければそれでいい。

  ムスメとチカとショウもいっしょだった。
  「お母さん、もうすぐ帰って来るから、
   あがって待っとき・・」と居間に誘った。

 ▼「まあ、座り」、立って話していると
  きゅうに部屋が狭くなったように感じる。

  「アツシは、いまも背は伸びとんの?」
  「おかん、おねえ、よりは高くなった」
  「そうか・・」

  我が家に来たら、必ず柱の前に立って、
  前回の目印から何センチ伸びたか、
  測ってくれと言っていたのに、
  ショウは高校にあがってからだろうか、
  アツシは中学生になってからか、
  自分から、せがむことはない。

  ショウはもう私より、2〜3センチは高そうだし、
  アツシもそのうち、私を超すだろう。

 ▼帰って来た妻は、
  「サイコ、これ食べる?」
  「うん、食べる、食べる!」
  とかなんとか、ムスメと台所で話しながら、
  せっせと「お土産」を作っては、手提げの紙袋に詰める。

  小遣いを渡し、買い出し荷物のようなお土産の山も、
  淡路からもらってきたタマネギも、そして、びわも、
  手分けして持ち、雨の中、車に運んだ。

  「あれ、車、ちがうやん!」
  「そう、これオレの車!」
  「ほんま、買ったの? そうなのか・・、へえ〜」

  そこには、淡い緑に水色の、かわいい車があった。
  いつもは運転席で待っているアキラの姿がない。
  
  「誰が運転するの?」
  「もちろん、オレが運転するにきまってるよ。
   じいちゃん、免許とるためのおカネ、出してもろたやろ・・」

 ▼何にも言ってこなかったけど、満を持したように
  ショウは、そう言って静かに笑っていた。

  私は、また、「ふう〜ん」と唸った。

  「大丈夫や。オレ、ちゃんと計画立てておるから・・」
  と、ショウは言った。

  いつものように、階段の上から、
  下の道を通って団地の出口に向かう車を見送った。

  真下を通り過ぎるとき、窓を開けて手を振り、
  「ありがとう」という、ムスメとチカの声が
  聞こえた。

  「運転だけには、気をつけろよ」とショウには言ったが、
  ゆるやかに道を下り、車は出口の方へ走っていった。
  後方から見ると、車は、美しい、幸福そうな、
  「かわせみ色」に見えていた。


2 5

コメント

mixiユーザー

ログインしてコメントを確認・投稿する