●2012年06月16日(土) 雨
▼「じいちゃん、今から出るわ!」
「あっそう。じゃあ待ってるから・・」
夕方から、焼酎をロックで呑んで
いい気分で寝ているところをアツシの電話で
起こされた。
妻が、朝、「きょうか、明日、サイコたちが来るって」
と、言っていた。
妻は、きのう、「びわ狩り」とかいう日帰りツアーに
友達と出かけ、お土産に「びわ」を買ってきた。
朝、ムスメに電話して、
「早う取りに来んと、びわ腐るよ!」と、
連絡してあった。
ムスメの話では、案の定、
アツシは、今月のお小遣いをもらいに
行きたいと、もらしていたそうだ。
▼ドアを開けると、メガネをかけた
アツシが立っていた。
「どうしたの、眼が悪くなったのか?」
「いいや、UVカットの眼鏡だよ」
「ふ〜ん、そうなんか」
眼の保護なのか、おしゃれなのか、私には
よくわからないが、近眼でなければそれでいい。
ムスメとチカとショウもいっしょだった。
「お母さん、もうすぐ帰って来るから、
あがって待っとき・・」と居間に誘った。
▼「まあ、座り」、立って話していると
きゅうに部屋が狭くなったように感じる。
「アツシは、いまも背は伸びとんの?」
「おかん、おねえ、よりは高くなった」
「そうか・・」
我が家に来たら、必ず柱の前に立って、
前回の目印から何センチ伸びたか、
測ってくれと言っていたのに、
ショウは高校にあがってからだろうか、
アツシは中学生になってからか、
自分から、せがむことはない。
ショウはもう私より、2〜3センチは高そうだし、
アツシもそのうち、私を超すだろう。
▼帰って来た妻は、
「サイコ、これ食べる?」
「うん、食べる、食べる!」
とかなんとか、ムスメと台所で話しながら、
せっせと「お土産」を作っては、手提げの紙袋に詰める。
小遣いを渡し、買い出し荷物のようなお土産の山も、
淡路からもらってきたタマネギも、そして、びわも、
手分けして持ち、雨の中、車に運んだ。
「あれ、車、ちがうやん!」
「そう、これオレの車!」
「ほんま、買ったの? そうなのか・・、へえ〜」
そこには、淡い緑に水色の、かわいい車があった。
いつもは運転席で待っているアキラの姿がない。
「誰が運転するの?」
「もちろん、オレが運転するにきまってるよ。
じいちゃん、免許とるためのおカネ、出してもろたやろ・・」
▼何にも言ってこなかったけど、満を持したように
ショウは、そう言って静かに笑っていた。
私は、また、「ふう〜ん」と唸った。
「大丈夫や。オレ、ちゃんと計画立てておるから・・」
と、ショウは言った。
いつものように、階段の上から、
下の道を通って団地の出口に向かう車を見送った。
真下を通り過ぎるとき、窓を開けて手を振り、
「ありがとう」という、ムスメとチカの声が
聞こえた。
「運転だけには、気をつけろよ」とショウには言ったが、
ゆるやかに道を下り、車は出口の方へ走っていった。
後方から見ると、車は、美しい、幸福そうな、
「かわせみ色」に見えていた。
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