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2006年07月26日01:29
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●順不同 (21)/■季節外れの「傷痍軍人」
■季節外れの「傷痍軍人」
●私の家から歩いて３０分くらいのところに、日本で最古の、
厄除けの神様を祀った「多井畑厄神」がある。
毎年、１月１８日から２０日にかけて、「厄神祭」がある。
小さな神社で八幡様を祀っているが、ふだん参拝客はほとんどない。
ところが例祭の「厄神さん」の日になると、臨時のバスが増便され、
どこからこんなに大勢の人が集まってくるのか、と思うほど
にぎわう。
●もう何年まえのことになるか、私は、そこで「傷痍軍人」の姿を見た。
子供たちが、まだ中学生と小学生であったと思うから、おそらく
１９８４年か１９８５年ころの話だと思う。
急な階段を上がっていく、参道の右側に２人か３人かで、
立って物乞いしていた。
傷痍軍人（しょういぐんじん）といっても、若い人は知らないかも
しれない。
昭和２０年代には、街角や、神社の祭礼、縁日などで、白装束に
軍帽をかぶり、松葉杖に、アコーデオン、そして首からかは浄財を
入れてもらうための白い箱をぶらさげていた。
戦争で傷つき、手足をなくした負傷兵で、義足や義手をつけていた。
町行く人は、見かければ、１０円とか５０円とか、幾ばくかの小銭を
その白い箱に入れた。
「目黒不動尊にて」
（佐々木明さんのＨＰから）
「白衣で街頭に立つ傷痍軍人 昭和２６年」
(日本青年社のＨＰから)
●しかし、多井畑神社で見かけた傷痍軍人は、白装束で、姿恰好は
戦後まもなくのニュース映画に出てくる傷痍軍人と同じであったが、
手足はあるようだった。
そして、手持ち無沙汰のように、突っ立っているだけで、バイオリンや
アコーデオンを弾くわけでもなかった。
怪訝な顔をして、その人たちを見ている子供の手を引き、私は
知らん顔をして階段をあがつた。
●まさに、季節外れのお化けか、幽霊を見るようだった。
敗戦後、すでに４０年近くなって、どこに傷痍軍人がいると
いうのだ。見れば、年齢は五十を過ぎたころ、果たして
戦争に行ったか、どうかもあやしかった。
・・・・
●なぜ、急に、こんなことを書くかといえば、それは昨日の
「matsubiski」さんの日記を読んだからだ。
「matsubiski」さんも、あるミクシイの方の日記で「傷痍軍人」の
ことが書かれていて、それを読んでご自分の思い出話を書いて
おられた。
昭和２０年代に幼少期を過ごしたものにとっては、あの敗戦まもなくの
街というのが、妙に懐かしく、甘酸っぱく感じることがある。
それで、私は、そこに書き込みをしたのだが、ちょっと気になることが
あって、インターネットで「傷痍軍人」を検索した。
●何が気になったか、というと、それは「ニセ傷痍軍人」のことだ。
おそらく、多井畑神社で出会ったのはニセモノであろう。
単なる物乞いであったに違いない。
しかし、私は、その「ニセ傷痍軍人」のことで、思い出すことが
ある。
母は、いつも「傷痍軍人」に同情的だった。が、それが、
いつごろからか、私が、お金をその人たちに渡そうとすると、
母は、いやな顔をしたのだ。そして、それがいつごろか、
はっきりとは覚えていないが、なにでも、あれは「ニセ傷痍軍人」
である、というようなことであった。
そして、その同じような話を、ある人のホームページにも
書かかれていることを発見した。
●で、「ニセ傷痍軍人」をインターネットで調べた結果は、
こうだった。
敗戦後、「軍人」は制度上いなくなり、同時に「軍人恩給」も
廃止された。戦地から復員してきた「傷痍軍人」はやむなく、
街頭に立って、病人であることを示す白装束で、「物乞い」を
したのだ。
そのような窮状を救うために、「恩給法」が昭和昭和２８年８月に
改正され、旧・軍人に対する「傷病恩給（障害給付）」が復活した。
●なるほど、それで「ニセ傷痍軍人」が出てきた、ということか、
と私は納得しかけた。
つまり、昭和２８年８月以降は、制度として、十分であるか
どうかは別として、一応、「傷痍軍人」には恩給が出るように
なったのだ。
だから、それ以降に、街頭や神社で見かける「傷痍軍人」は
ニセモノか、あるいは、恩給をもらいながら、なおかつ、浄財も
求めていた、ということになる。
●しかし、検索にひっかかってきたものに、そうではない
別のものがあった。
それは、敗戦と同時に「日本国籍」を失った、朝鮮人や台湾人の
旧･日本軍人で、傷痍した人々だった。
彼らは、復活した「傷病恩給（障害給付）」の対象外だった。
そのようなことが、断片的ながら、昭和３２年の国会の質問主意書や
同答弁書の記録でわかってきた。
●そうなると、世間一般に「ニセ傷痍軍人」といわれていた人々の
中には、これらの朝鮮人や台湾人の「傷痍軍人」がいたのかも
しれない。
だとすれば、それは「ニセ傷痍軍人」と、果たして呼んでいい
ものだろうか。
・・・・
戦後６１年、私はようやく、真実の一端にふれるとともに
季節外れの「傷痍軍人」にであったのだった。
そして、四方田犬彦さんの文章を引きながら、私と同じような思いを
書いている「ある人」、それが「保坂和志」さんであることも
わかった。
■案内
・最近の日記「目次」
●私の家から歩いて３０分くらいのところに、日本で最古の、
厄除けの神様を祀った「多井畑厄神」がある。
毎年、１月１８日から２０日にかけて、「厄神祭」がある。
小さな神社で八幡様を祀っているが、ふだん参拝客はほとんどない。
ところが例祭の「厄神さん」の日になると、臨時のバスが増便され、
どこからこんなに大勢の人が集まってくるのか、と思うほど
にぎわう。
●もう何年まえのことになるか、私は、そこで「傷痍軍人」の姿を見た。
子供たちが、まだ中学生と小学生であったと思うから、おそらく
１９８４年か１９８５年ころの話だと思う。
急な階段を上がっていく、参道の右側に２人か３人かで、
立って物乞いしていた。
傷痍軍人（しょういぐんじん）といっても、若い人は知らないかも
しれない。
昭和２０年代には、街角や、神社の祭礼、縁日などで、白装束に
軍帽をかぶり、松葉杖に、アコーデオン、そして首からかは浄財を
入れてもらうための白い箱をぶらさげていた。
戦争で傷つき、手足をなくした負傷兵で、義足や義手をつけていた。
町行く人は、見かければ、１０円とか５０円とか、幾ばくかの小銭を
その白い箱に入れた。
「目黒不動尊にて」
（佐々木明さんのＨＰから）
「白衣で街頭に立つ傷痍軍人 昭和２６年」
(日本青年社のＨＰから)
●しかし、多井畑神社で見かけた傷痍軍人は、白装束で、姿恰好は
戦後まもなくのニュース映画に出てくる傷痍軍人と同じであったが、
手足はあるようだった。
そして、手持ち無沙汰のように、突っ立っているだけで、バイオリンや
アコーデオンを弾くわけでもなかった。
怪訝な顔をして、その人たちを見ている子供の手を引き、私は
知らん顔をして階段をあがつた。
●まさに、季節外れのお化けか、幽霊を見るようだった。
敗戦後、すでに４０年近くなって、どこに傷痍軍人がいると
いうのだ。見れば、年齢は五十を過ぎたころ、果たして
戦争に行ったか、どうかもあやしかった。
・・・・
●なぜ、急に、こんなことを書くかといえば、それは昨日の
「matsubiski」さんの日記を読んだからだ。
「matsubiski」さんも、あるミクシイの方の日記で「傷痍軍人」の
ことが書かれていて、それを読んでご自分の思い出話を書いて
おられた。
昭和２０年代に幼少期を過ごしたものにとっては、あの敗戦まもなくの
街というのが、妙に懐かしく、甘酸っぱく感じることがある。
それで、私は、そこに書き込みをしたのだが、ちょっと気になることが
あって、インターネットで「傷痍軍人」を検索した。
●何が気になったか、というと、それは「ニセ傷痍軍人」のことだ。
おそらく、多井畑神社で出会ったのはニセモノであろう。
単なる物乞いであったに違いない。
しかし、私は、その「ニセ傷痍軍人」のことで、思い出すことが
ある。
母は、いつも「傷痍軍人」に同情的だった。が、それが、
いつごろからか、私が、お金をその人たちに渡そうとすると、
母は、いやな顔をしたのだ。そして、それがいつごろか、
はっきりとは覚えていないが、なにでも、あれは「ニセ傷痍軍人」
である、というようなことであった。
そして、その同じような話を、ある人のホームページにも
書かかれていることを発見した。
●で、「ニセ傷痍軍人」をインターネットで調べた結果は、
こうだった。
敗戦後、「軍人」は制度上いなくなり、同時に「軍人恩給」も
廃止された。戦地から復員してきた「傷痍軍人」はやむなく、
街頭に立って、病人であることを示す白装束で、「物乞い」を
したのだ。
そのような窮状を救うために、「恩給法」が昭和昭和２８年８月に
改正され、旧・軍人に対する「傷病恩給（障害給付）」が復活した。
●なるほど、それで「ニセ傷痍軍人」が出てきた、ということか、
と私は納得しかけた。
つまり、昭和２８年８月以降は、制度として、十分であるか
どうかは別として、一応、「傷痍軍人」には恩給が出るように
なったのだ。
だから、それ以降に、街頭や神社で見かける「傷痍軍人」は
ニセモノか、あるいは、恩給をもらいながら、なおかつ、浄財も
求めていた、ということになる。
●しかし、検索にひっかかってきたものに、そうではない
別のものがあった。
それは、敗戦と同時に「日本国籍」を失った、朝鮮人や台湾人の
旧･日本軍人で、傷痍した人々だった。
彼らは、復活した「傷病恩給（障害給付）」の対象外だった。
そのようなことが、断片的ながら、昭和３２年の国会の質問主意書や
同答弁書の記録でわかってきた。
●そうなると、世間一般に「ニセ傷痍軍人」といわれていた人々の
中には、これらの朝鮮人や台湾人の「傷痍軍人」がいたのかも
しれない。
だとすれば、それは「ニセ傷痍軍人」と、果たして呼んでいい
ものだろうか。
・・・・
戦後６１年、私はようやく、真実の一端にふれるとともに
季節外れの「傷痍軍人」にであったのだった。
そして、四方田犬彦さんの文章を引きながら、私と同じような思いを
書いている「ある人」、それが「保坂和志」さんであることも
わかった。
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