■雑誌・欲望・広告 （2）
◆雑誌と欲望
●社団法人・
日本雑誌協会は、日本の有力な雑誌出版社を会員とし、
その会員の雑誌発行部数は日本全体の約８０％余を占めるという。
協会が発行する「
マガジンデータ2005」には、日本を代表する
７８社６４５誌の、発行部数などのデータが、それぞれの雑誌の
表紙写真つきで紹介されているらしい。
●「本」を大別すると 「書籍」と「雑誌」に分けられる。
「
雑誌」は図書館などでは「逐次刊行物」と呼ばれ、週刊、
月刊、季刊など、一定のサイクルで刊行されるものが多い。
学会誌なども含まれ、中には不定期刊のものもある。
最近では、「書籍」と「雑誌」の中間に位置する「ムック」
（Magazine と Book の合成語「Mook」）というのもあり、
これは、出版流通としては「雑誌扱い」となっている。
●「書籍」には、「
ＩＳＢＮ」（International Standard Book Number）
という、１０桁の
国際標準図書番号が一般につけられているが、
これに対し、「雑誌」には、５桁の出版流通の「
雑誌コード」が
利用されている。
出版流通上では、実際の「本」の内容・形態とに関わりなく、
「ＩＳＢＮ」が付されたものが「書籍」であり、「雑誌コード」の
あるものが「雑誌」として取り扱われる。
（注：逐次刊行物には「
ＩＳＳＮ」というコードもある）
●「書籍」も「雑誌」も「本」であり、知識や情報の伝達になくては
ならぬものではあるが、「雑誌」は「書籍」にはない特徴がある。
たとえば、「テーマ」である。「雑誌」の場合は、「書籍」とは
ちがって、ある分野のあるテーマを、いろいろな切り口で
誌面を構成し、しかも、毎号、毎号、「特集」を設けるなどして、
つねに、時代と読者の関心に照準を合わせながら編集し、発行する
ことができる。
それがために、「書籍」の集積は「知の一覧」のように見えるのに
対し、「雑誌」の集積は「欲望の一覧」のように見える。
●事実、大きな書店に行き、雑誌コーナーを覗くといい。
そこには、人々のありとあらゆる関心、欲望が「雑誌」となり、
「特集」となって並べられている。
「総合雑誌」の衰退がいわれて、もうすでに久しいが、一億
総オタク化した現代にあっては、文学・芸能・スポーツ・趣味など、
いずれの分野でも、多種多様な「雑誌」がならんでいる。
「こんな雑誌、誰が読むのか」と思われるくらい、特殊・専門化
した「一般人向け」のニッチな雑誌がある。
●大手の岩波書店は、雑誌協会に加盟していないようだが、
このような未加盟出版社を含めると、実際のところ、日本に
いま、どれくらいの数の「雑誌」が存在しているのか、よく
わからない。学会誌や、弱小の地方出版社、また同人誌などを
含めれば、まさに、欲望の数ほどの「雑誌」が存在するにちがい
ない。
もし、晴海や幕張に、全国のありとあらゆる「雑誌」を一冊残らず
集めたとしたら、どんなに壮観なことか。
そこには、ぎらぎらした人間の欲望の炎が燃え立っているように
見えるだろう。
●私は、色とりどりの、様々な意匠に身を包んだ「雑誌」の陳列を
前にして思い出すのは、ゴータマ・ブッダが象頭山の山頂に登り、
ガヤの町をはるかに見渡して、僧たちに述べた次の章句である。
「
比丘（びく）たちよ、一切は燃えている。比丘たちよ、一切が
燃えているとは、どういうことであろうか。
比丘たちよ、眼は燃えている。色は燃えている。
・・・
また、耳は燃えている。・・・鼻は燃えている。
・・・舌は燃えている。・・・身は燃えている。
・・・また、意（こころ）は燃えている」
（
阿含経（あごんきょう）「相応部」、漢訳・雑阿含「燃焼」）
●ブッダが「苦の生起」の原因に、対象への「渇望」「渇愛」を
挙げ、「渇き」にも似たこの「欲望」とは、まるで人を炎で焼き
尽くすようだ、と説いた。
そのように、人間の欲望には限りがない。
世界を「雑誌」で埋め尽くしても、人間の欲望の果てることはない。
おそらく、私たちの渇望は、そのまなざしによって
「雑誌」をもまた、業火でもってめらめらと、燃焼させるに
ちがいない。
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