■「逃散」
●「
逃散」と書いて、「ちょうさん」と読む。
日本の中世から近世にかけて、農民が為政者への抗議の方法として、
集団で、定められた居住地を逃れ去ることをいうらしい。
はるか昔に、日本史でならったような気がする。
こんな用語をなぜ思い出したか。
それは、きょう観たＴＶのためだ。
自分のためにも、ひとこと書いておきたいと思い、古いシリーズの
「順不同」に書くことにした。
●きょう（７月２３日）、妻の帰宅を待ちながら、ＴＶを観ていたら
こんな番組をやっていたのだ。
▼ＮＨＫスペシャル ＜07/23(日) 後09:00 → 後10:15 ＮＨＫ総合＞
『
急増“働く貧困層”』
▽400万世帯が生活保護水準以下
▽リストラで年収200万・父親の涙
▽仕事に就けない若者都会を漂流
いくら働いても、豊かになれない「ワーキングプア」と
呼ばれる低所得者層の実態をリポートする。
働いているのに、生活保護水準以下の暮らししかできない
ワーキングプア世帯は、全世帯の約10分の1に当たる400万世帯
とも、それ以上ともいわれる。
景気が回復に転じたとされる都会でも、正社員は狭き門で、
3人に1人が非正規雇用で働いている。
子どもを抱える低所得世帯では食べるのに精いっぱいで、
子どもの将来にも暗い影を落としている。
一方、地方では低収入が原因で税金を払えない人が急増
している。
基幹産業の農業は厳しい価格競争にさらされ、離農する人が
後を絶たず、集落の存続すら危ぶまれている。
高齢者世帯には医療費や介護保険料の負担増が追い打ちを
かけている。
憲法が保障する「人間らしく生きる最低限の権利」さえ
脅かされかねないワーキングプアの深刻な実態に迫り、
これから目指すべき社会の在り方を模索する。
●観られた方も、おられると思う。
私は見ながら、涙がポロポロ流れてきて、とまらなかった。
妻を病気で亡くし、会社でリストラに遭い、ガソリンスタンドの
アルバイトなど三つの仕事をして、中学生と小学生の二人の子供を
育てる５０歳を超えた男性。
石巻の高校を卒業して、地元では正職員の職がなく、工事現場の
交通整理をする警備員になったが、身分はアルバイトなので
安定的な仕事を求めて上京。いくつもの職を経験し、食いつなぎ
貯金もするが、「正職員」の仕事はない。ついにホームレスとなる。
それでも、職を求め「ハローワーク」に行くが、面接会場に行く
交通費がない３４歳の青年。
コメを作っても赤字。副業で漬物を漬け、販売。朝は５時から
晩は１２時まで働いても赤字。それでも税金の督促がくる農家。
年収が２４万円。かつては繁盛したが、いよいよ寂れるばかりの
地方の町・角館。
妻はアルツハイマー。その入院費の支払いに収入のほとんどが
飛んでいく。そして、税金も払えないのに、介護保険料の
負担倍額の通知を受ける洋服仕立ての老人。
そんな農民や町民が集まって、「税金の免除」の相談をする。
●もし、これが、私に全然、関係のないことだったら、こんな
「辛気臭い番組」、観（み）もしないだろう。
帰ってきた妻は、いつもなら、
「そんなの、なんぼ観（み）ても
日本はよくならないの。
アホの小泉、アホな国民。
とことん、行くとこまで行かな、わからへん。
まぁ、アホな番組見て、笑ろとるほうが
なんぼか、賢いわ！」
と、チャンネルを変えるのだが、きょうは、そのまま、
私と一緒に観た。
●番組では、「正職員は狭き門」と言っていたが、これはウソだ。
今年は、かつての「氷河期」なんて言葉が信じられないぐらいに
「正規職員・就職戦線」は売り手市場。
学生は、二つも三つも内定が決まり、「仕事はよりどりみどり」、
企業側では、優秀な学生確保のためのコンサルタント・ビジネスが
大流行。
つまり、学生を含め求職者にも、はじめから「大企業」や
「正職員」になれる人々（嫌いな言葉で言えば「勝ち組」）と、
いくら頑張っても、そんなところには採用してもらえない人々が
二分されて存在しているのだ。
だから、ボーナスも今年は史上最高になる人々と、そんなのは
異国の話のように聞く人々がいるのだ。
●しかし、しっぺがえしは必ず来る。
年収６００万円から２４０万円になって、男手ひとつで、
夜勤の仕事をしながら頑張っている、あの５０歳を超えた男性。
私が同じ立場なら、「ああ、もう、やめた」と、言わないだろうか。
また、私がホームレスの３４歳の青年だったら、財布の中に
一銭もなかったら、置き引きぐらいは、するのではなかろうか。
貧困は、必ず犯罪を生む。
そして、犯罪の多くは、貧しいものが貧しいものを
虐げる犯罪であるが、そのうち、「復讐の犯罪」も必ず
起きる。
「勝ち組」は「勝ち組」であることに怯（おび）えるときが
必ず来る。
それは、単に復讐を恐れるだけでなく、うすうす自己の「犯罪性」、
つまり、おのれの影に怯えるからだ。
●歴史用語の説明によれば、農民の抵抗手段、闘争形態である
「逃散」と、単に、逃れて流浪する「逃亡」とは、区別される
らしい。
で、今年、秋田県では、１００以上の集落が、新たに住民ゼロに
なったということだ。
・・・・
●ああ、それにしても、私が夢想するのは「大衆」という言葉だ。
日本で労働組合が、体制の補完物となったのは１９７４年である。
いま、社会には、ことばの本来的な意味での、体制に対峙できる
「大衆」はいない。また、その「組織」も。
野党は、野党という名の「政党」にすぎない。
けっして「大衆」ではない。
あるいは、それは逆に、「党」という、「大衆」とは対立する
「組織」であるのかもしれない。
（注）
※アホなので、言わずもがなの蛇足を、また、書いてしまった。
言い訳をすれば、つぎようなこと。
俊英なる諸兄におかれては、私の舌足らずのほど、
ご賢察とご寛恕、よろしくお願い申し上げます。
▼「党と大衆」という図式を、両者を対立させるために
私は持ち出したわけではありません。
澎湃（ほうはい）として湧きおこる大衆運動の真のリーダー
として、「党」があってほしいので、そのように書きました。
私は、「大衆党」は「大衆精神」のただ中にこそ、存在する
と思うからです。
▼また、
森田実氏は
「日本人は忍の民です。抵抗と言えば、逃散くらいで
しょうか。
（フリーターは現代の逃散といえるかもしれません）」
と、「
森田実の時代を斬る」に書いていました。
http://www.pluto.dti.ne.jp/~mor97512/C0945.HTML
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