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2011年09月15日20:49

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■虫のこえ(4)

●9月15日(木)  晴れ

 ▼平安時代、「鈴虫」「松虫」について書かれた文献は枚挙にいとまがない。
  よく知られている『枕草子』の43段「虫は」では、
     蟲は、すずむし。ひぐらし。てふ。松蟲。きりぎりす。
     われから。ひをむし。螢。
     みのむし、いとあはれなり。鬼の生みたりければ、親に似て・・
  と「鈴虫」「松虫」の名が挙げられている。

  また、『源氏物語』鈴虫の巻には、
     鈴虫のふり出でたるほどはなやかにおかし・・
     鈴虫は心やすく、いまめいたるこそろうたけれ・・
  とある。

  しかし、それらの文献に擬声語で鳴き声を記録したものはない。


 ▼秋の虫の鳴き声をどう聞きなしたか、それが文献に現れるのは
  室町時代になってからである。

  能の詞章を写した謡曲本には、次のような記録がある。

     たれまつむしの音は、りんりんとして、風茫茫たる・・
       (謡曲「野宮」・光悦本)
     松虫の声りんりんりん、りんとして、夜の声、冥冥たり。
       (謡曲「松虫」・光悦本)

  上の「りんりん」は「凛々」であるかもしれないが、下の「りんりんりん」は
  擬声語「リンリンリン」の可能性がある。

 
 ▼江戸時代の正徳年間(1711年〜1716年)になると、考証学者の間で、
  「松虫・鈴虫入れ替わり説」についての論議がかまびすしくなる。

  なかでも、賀茂真淵の弟子・塙保己一の、そのまた弟子である屋代弘賢が
  「入れ替わり説」を唱えた。
  彼は、壬生忠岑の延喜七年(907年)の記事から、この頃までは、
  松虫はチンチロリン、鈴虫はリンリンリンと今と同じように鳴いていたが、
  それ以降、紫式部(978年〜1016年)の時代になると、松虫と鈴虫は入れ替わって、
  リンリンリンと鳴くのが松虫で、チンチロリンと鳴くのを鈴虫と言うようになった、
  としたのである。

  この論証についての詳細は、白石良夫・著『古語の謎』に譲るとして、
  結論を言えば、屋代弘賢の「松虫・鈴虫入れ替わり説」は憶測と推量による
  極めて荒っぽいものであった。


 ▼はっきり言えることは、江戸時代・屋代弘賢の生きていた1758年〜1841年頃までに
  松虫は「チンチロリン」、鈴虫が「リンリンリン」と鳴くという擬声語が定着していた、
  ということだけである。
  そして現代も、私たちは、そのように表現するのが常となっている。

  しかし、これは「聞きなし」であって、けっして虫がその通りに鳴くわけではない。



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