mixiユーザー(id:2230131)

2010年05月01日00:32

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God Only Knows

 ニコニコ動画とかを見てると、たまに「神曲」という言葉に出くわすことがある。

 「神曲」とは、「素晴らしい曲」の意で、おもに「神曲キターーー!!!(゚∀゚)」といったような用法で使われているようだ。
 ただ俺に言わせれば、ビーチ・ボーイズの“神のみぞ知る”こそが、真の神曲だと思ってる。俺が間違ってるのかもしれないけど、連中が“神のみぞ知る”を知らずにそんなことを言ってるのだとしたら、謹んでコメントを差し控えるべきである。なんて。

 “神のみぞ知る”は、ポール・マッカートニーに「これまで聴いた中で最高の楽曲」とまで言わしめた、ポップ・ミュージック史における金字塔である。真の神曲は、あのポールですらひれ伏す神通力があるらしい。
 だけど正直に言って、この曲は難解で有名な『ペット・サウンズ』に収録されてたこともあって、聴き始めたガキのころはまだ真価を汲み取れてなかったように思う。
 “神のみぞ知る”は、一見してなんてことのないポップなバラッドである。では、一般的に言われているこの曲のとっつきにくさの正体――何年経っても色褪せることのない美しさの正体とは一体なんぞやと。
 実は単純そうに見えて、相当に凝ったアレンジが加えられてたりするのだ。

 イントロのフレンチ・ホルンで、まずその美しさに打ちのめされる。ボーカルと同時に鳴り出すパーカッションも、ドラム以外にも様々な音が鳴っている。中盤で始まるチェロなどのストリングス、アクセントに挿入されるキーボード、アコーディオンなど、さり気ないが効果的な演出がなされている。
 職人が丹念に作り上げた、伝統工芸品のような楽曲だ。

 あと、僕は楽器をやってないので詳しいところは分からないんですが、コード進行が独特ですよね。最初のブレイク部分なんか、コーラスを含めて組み合わせ方が尋常じゃない。当然のようにベース音も外れてくるので、普通に聴いたらちょっと奇妙な展開に聴こえるかもしれない。
 そして後半にはとろけるような三部輪唱のコーラスが始まるが、ここで冒頭のフレンチ・ホルンのメロディが再び登場して、見事な着地を飾っている。

 単純に聴こえるのに、実は様々な“罠”が巧妙に仕掛けられている。そして何度聴いても飽きないばかりか、時を経るごとにしみじみと良くなってくる。もう40年以上経っているのに、いまだ神は我々に御加護を与えて給うのか。(危ない話になってきた)

 ブライアン・ウィルソンが精神を崩壊させながら完成させた『ペット・サウンズ』。これが長年愛されているのは、彼が自己破壊のさなか生み出した巧妙な“罠”に、知らず知らずのうちに我々が引き寄せられてしまった結果なのかもしれない。
 僕はこの曲に対して、感動というよりむしろ信仰に近い感情を抱いている。神様の仕掛けた“罠”は、美しいフレンチ・ホルンの衣を身に纏い、今もボディーブローのようにじわじわと僕の心を浸食していく。彼を蝕んだ精神病のように。


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