■早すぎ

●８月１４日(金)　　晴れ

　妻が休みで、三宮の美容院に行くというので
　仕事が終わってから、夕方、妻と待ち合わせる。

　５時半、地下鉄の三宮の改札前で待っているが来ない。
　もし、遅くなるようなら喫茶店で待っているから
　携帯に電話するように頼んでいたのに電話もない。

　
　「大丈夫よ、ワタシの方が早いから・・」と、気楽に言ってたはずなのに
　２０分たっても電話がない。妻の携帯に電話するが応答がない。
　留守電に、折り返し電話するようメッセージを入れ、地下から上がって
　「にしむら珈琲店」で待つことにする。


●「ごめん。眠ってしまって電話かけるのも忘れてた・・。
　　美容院、予約してあったんだけど、ちょっと遅くなったみたい」
　と、悪びれる様子もなく、すぐに妻がやってきた。

　私は、内心ムッとしていたはずなのに、これも雨散霧消する。
　夕暮れの街を新神戸駅まで妻と歩く。　むかし、むかし
　上司に連れられてきた店が、たしか、このあたりにあったのではと
　裏筋を通ってみる。　すきやきの店は今もあったが、普茶料理の店は
　みつからなかった。

　もう、とんと来たことがないのだから、街がさま変わりしていても
　不思議はないのだけれど・・・。


●妻が友人と二人で、シャンソンのリサイタルをするという会場は
　すぐ見つかった。新神戸駅のすぐ近くだ。

　オリエンタルホテルのある、この新神戸駅のあたりも
　「出張」ということがなくなって、来ることがなくなった。
　大きな施設の割に客数が少ない・・、と思う。

　食堂街のフロアーを歩き、リサイタルに来てくれる高校時代の
　友人と食事のできる店をさがす。
　これは、と思うところはないが、ここならいいかと思うところに
　入ってみて、妻と夕食にする。


●こうしていると、１０年も１５年も前のことが、そんなに前のことでも
　ないような気がしてくる。

　三宮から新神戸にかけての東門筋や北野坂あたりは、それぞれに、それぞれの
　所用があって来たものだ。　

　妻に、「ソネ」に行ってみようかと誘う。
　ジャズライブをやっている店で、何かの拍子に、そんな気分になって
　数回ひとりで行ったことがある。

　「ソネ？　あそこでも昼間、貸切で２回、発表会したことあるわ」と妻がいう。
　知らなかった。そうか、そうだったんだ、と思う。


●新神戸駅から北野坂の方へ向かう交差点に出て、
　細い坂を少し上ったところで、妻が言う。

　「あれっ、あれなーに？」

　うむっ？

　道路の向こうで歩道から、家の庭の花壇の草か花かを食べている
　１メーターを超す大きな動物が夕闇の中にいる。

　間違いなく「いのしし」である。
　よく見ると、尻尾を振っている。
　うれしそうに、何やら食べている。

　まさかと思うが、野良犬ならぬ
　野良イノシシであった。


　冬に住吉川あたりでは、山からイノシシがよく降りてきて
　餌をやって手をかまれた、というようなことはあるが
　この時期に、このあたりで、街中を散歩するイノシシに出会うとは
　思ってもみなかった。

　花札で「萩に猪」は、なぜか７月のカードになっているのだけれど・・。