■『狂人日記』 (5)
●7月20日(月) 曇り
曇り空に、うぐいすが鳴いている。
きょうも休みで、内心、ちょっとだけ仕事が懐かしくなっている。
あすは理事会である。夜7時半から始まる。5時にいったん仕事が終わり
それから2時間半後に始まる。 時間待ちと、帰りが遅くなる・・。
だから、ヤダナーと思う。 それなのに、連休3日目の今日あたりになると
仕事が懐かしくなる。
●色川武大は「年譜」によると
・1968年(昭和43年) 39歳
この頃、神経病の一種ナルコレプシー嵩じるも、医者に
行かぬため本人には病名わからず。
幻聴、幻覚甚だしく、長期入院の必要も予想せざるを得ず、
入院費を稼ぐつもりで、変名”阿佐田哲也”で原稿料の高い
週刊誌に麻雀小説を書く。
・・・・
・1974年(昭和49年) 45歳
この頃、持病はナルコレプシーとわかり、病理まだ解明されぬため
治療法わからずとのこと。
それではこの状態を我が健康と思うよりほかないので、
ぽつりぽつり本名を使う仕事のことを考える。
と、ある。
●参考までに、いつものようにウィキペディアの解説、
「
色川武大」と、「
ナルコレプシー」をあげておく。
ついでに、YouTube「あの人に会いたい」の『
色川武大へのインタビュー』も
あげておく。 (これはオススメである)
また、色川武大をとりあげた『驚きももの木20世紀』(
1,
2,
3,
4,
5)も。
(5分割して録画されている。5は、残念なことに音声がないが・・・)
忙しい方は、
『驚きももの木20世紀』4だけでも見ていただければ
幸いである。
『狂人日記』がなぜ書かれたのか、その書かれるまでがわかる。
●ところで、私は偶然にも、昭和50年頃にはこの病気「ナルコレプシー」のことを
知っていた。
というのは、私の配置転換先の職場に、同じ病気のKという私より二つ、三つ
年下の男がいたからだ。彼は元、県警の施設部かどこかにいて、その後
私の職場に転職してきた。
●嘘か真か知らないが、流通業では東洋一の物流センターと当時言われていた
その職場では、5階建てかの建物の屋上に、高圧電線を引きこんで大型トランスで
電灯電源、動力電源に変圧する電気室があった。
彼はそこの「電気主任技術者」であった。
巨大なトランスがいくつもも並ぶだだっ広い部屋に、机と椅子が
一組あり、そこで一人で、トランスのお守や電気修理の仕事をしていた。
その頃、私も
幽閉状態で、労組活動の危険分子「過激派」とみなされ
職場の仲間は私と口をきかないように指示されており、私は一人部屋を
あてがわれ仕事をしたりしていた。
あるとき、彼が私の部屋に来て、電気室の自分のところにはコーヒーセットが
おいてあるから飲みに来ないか、と誘った。仕事で私に用があるときは
電話がかかってくるが、私はトイレにでも行ったことにして電気室に
はじめて彼といっょに行って、コーヒーを飲んだ。
●何でKが職場の禁を破って私に近づいてきたのか。
おそらく、一人部屋という状況が同じだったことと、彼もまた
職場の中にあって、誰とも違う仕事をしていて、
しかも、他所から来た人間で「孤独」だったからだと思う。
Kとはその後、ある事情があって別れてしまうことになるが、その日以来、
彼はずっと、25年以上もの長きにわたって、私の親友であった。
彼は自分がナルコレプシーであることを私に言った。
突然、睡魔に襲われることや、歩いていていつの間にか眠ってしまって
ドアにぶつかったことがあるなどと話した。
普段の様子からはまったくの健康者であり、病気による何かの事件の話を
聞いたこともない。もちろん、幽閉状態だから私が知らないだけかもしれないが、
職場で眠ってドアにぶつかった話など、誰かが見ていれば噂にでもなったろう。
おそらく職場ではそのことを隠していたし、薬を服用していることは誰も知らな
かったろう。
だから、そのときは「へぇーっ」と思って、私は、そんなこともあるものだ、と
思って聞いたのだとおもう。
●ただ、一度だけ、私はその現場に立ち会ったことがある。
付き合いはじめてかなりたったころで、二人で飲むことがあった。
座敷で向かい合って飲んで、しゃべっていた。が、なんかヘンなのである。
レコードの回転数が落ちるように、彼のしゃべる音声がのっぺりとしてきて
のろのろと緩慢になり、そして歯が抜けた老人がしゃぺっているような
フガフガいう音が混じった。 おやっと思っていると、今度は急に顔の筋肉が
たるむような感じになり、表情がみるみる変化して目がトロンとしてきた。
そのあとのことをよく覚えていないのだが、私はあわてて何が起きたのか、
彼の方に行き、顔が急変していることを告げ、大丈夫か、と尋ねたりしたのだと思う。
そして、いつも持参しているクスリを彼は飲んだのだと思う。
●後日、聞いたところでは、話に興が乗ってきたり、何か特に興奮するようなことが
あると、急に力が抜けるようになることがある、とのだった。
ログインしてコメントを確認・投稿する